症例3 インスリン治療されている患者へローカーボ食を導入
現在治療の真っ最中の患者です。心筋梗塞の既往があり、総合病院でインスリンを導入されていましたが、決してよい血糖コントロールではありませんでした。
ローカーボ食をどのようにして導入し、インスリン量と種類を変更、その後インスリン量を減量して、HbA1cの目標に達するかをカルテそのままを抜粋しました。目標は7.0%前後で、それより大幅に下げるのはCurrieらやACORDなどの報告から死亡率が上がります。とくに心筋梗塞既往例では1回の低血糖発作でも心臓のダメージは大きいとされていますので、この患者には要注意です。
60才台、女、無職、心筋梗塞既往、高血圧、高コレステロール
他院(総合病院)からの紹介、要点は
①DMは2000年発症、2008年インスリン導入、HbA1c8.0%前後 LDL:110前後、腎症Ⅱ期、インスリンはノボリン30R:朝30U/夕4Uを投薬中。
②2003年下壁梗塞、冠動脈にステント
③その他の処方:バイアスピリン100、リピトール10、ディオバン40、ラシックス20、アイトロール20 2錠。
3月25日初診。 血圧119/70、脈拍76/分、体重58。2kg、身長149cm、BMI:26.1。聴打診で異常なし、脳梗塞既往なし、DM性自律神経障害なし、単純網膜症あり。4月1日の空腹時採血: HbA1c8.6%、空腹時血糖値:264mg/dl、LDL:107, HDL:47、TG:240、CPR:2.03、尿アルブミン8.9mg/g Cr
初診時の方針
1)現在のハイカーボ食の食事日記(3日間)
2)4月1日の空腹時採血、尿中アルブミン
3)4月1日から朝、夕の2CARDを開始、インスリンを変更(4回打ちへ)。
4月1日からの経過
朝、夕の2CARDのローカーボ食指導、ランタス12U/寝る前のみで2週間経過を見た。そして、食事前後の血糖値(朝の前後、翌日は昼の前後、翌々日は夕前後、その次は1日休む、4日クールを繰り返す)を測定するように指導。
朝食前後(CARD実行):190-241/216-240 (単位はmg/dl)
昼食前後(CARDなし):171-285/241-413
夕食前後(CARD実行):145-370/281-414
★方針:朝夕食は炭水化物制限なので、昼にアピドラ8U加える、寝る前ランタス14Uは不変。
5月6日、HbA1c9.3%へ悪化、体重58.0kg。
朝食前後 140-230/189-255 (単位はmg/dl)
昼食前後 200-251/187-263
夕食前後 200-241/141-255
★方針:インスリン量を増やさないためとインスリンの癌プロモーターの作用を打ち消すためにメトグルコ500mg開始。 ローカーボ食実行している朝と夕に少量のインスリンを追加。アピドラ 朝4/昼10/夕4へ増量、ランタス14/寝る前は不変。
6月3日、HbA1c8.6%へ改善、58.6kg。
朝食前後 138-172/132-184 (単位はmg/dl)
昼食前後 78-167/67-217
夕食前後 129-164/119-171
★方針:まだ朝食前が高いが、昼食前後と夕食前後はかなりよいのでインスリンはそのまま。 メトグルコ1000mgへ増量。
7月8日、HbA1c7.4%、58.3kg。
朝食前後 92-177/78-189 (単位はmg/dl)
昼食前後 112-200/135-193
夕食前後 140-181/130-180
★方針:食事前後で血糖値の変動は小さくなっているのでCARDはうまく実行できていた。また食後血糖値<200でかなりよい状態。低血糖発作はなかった。メトグルコ1000mgそのまま。 インスリンを減量開始、夕食は完全にローカーボ食ができているのでのアピドラは不要。アピドラ 朝4/昼10/夕0へ減量、ランタス14U/寝る前は変更なし。この時点でインスリンを減量しないと低血糖発作が頻発する。早めに手を打つ。
8月12日、HbA1c6.7%、血圧131/71、88/分、体重57.6kg。
朝食前後 82-122/121-165 (単位はmg/dl)
昼食前後 77-145/83-145
夕食前後 104-162/83-145
★方針:昼食前血糖値50mg/dlが2回あったが、無症状。朝も食事前後で上昇がほとんどないので、 朝のアピドラを終了。低血糖は危険なので、できるだけ起こさないようにする。昼前に起こったので、朝のインスリンはすぐに減らすか、中止すべき。昼食後も血糖値は上がらないので昼前のアピドラを8Uへ減量。
メトグルコはそのまま、アピドラ 朝0/昼8/夕0、ランタス14U/寝る前は不変。その他の処方:①アイトロール(20)2錠 メトグルコ(250)4錠 ②バイアスピリン100、リピトール10、オルメテック10、ナトリックス1
考察
ハイカーボ食下のインスリン治療とはひと味違う考え方が必要です。食事前後で血糖値を測定すること、前後の落差が縮まればローカーボ食はうまく実行できていることは確証できます。HbA1cよりも食事前後で血糖が上がってないかが重要です。この患者の場合、朝夕食にローカーボ食を食べていますから、朝夕食前後の血糖値の変化をグラフにしてみました。初診時はハイカーボ食ですから、 食前(青)と後(赤)の落差は大きいのですが、すぐに食事前後の差が縮まりながら、全体が下がっていったのがよくわかります。