日本ローカーボ食研究会

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第4章 糖質と脂質の代謝の違いとカロリー神話の崩壊 その1

日本ローカーボ食研究会代表理事 
灰本クリニック 医師 灰本 元
名古屋大学名誉教授(細胞生理学) 加藤 潔

 糖質、脂質、タンパク質は構成元素C(炭素)、H(水素)、O(酸素)が共通の三大栄養素で、タンパク質には他にN(窒素)が必須です。いずれもエネルギー源であると同時に生体を構築する材料ですが、生命の主たるエネルギー源は糖質と脂質で、脂質は糖質の貯蔵型と考えてよいかと思います。生命は、糖の代謝システムをエネルギー代謝の中心に据えて進化してきました。一方、ヒトは脳神経系を飛躍的に発達させ進化の過程で膨大な数の神経細胞を用意しなくてはならず、その細胞膜を構成する脂質の需要が高まり、貯蔵エネルギーとしてだけでなく細胞の構成材料としての脂質の摂取が増加したと考えられています。

 食餌に伴うヒトの生理反応は糖質と脂質とでまったく違います。わたしたちは2008年に軽症の糖尿病患者(平均HbA1c7.3%)の協力を得てローカーボ食とハイカーボ食(図ではカロリー制限食と表示)の負荷試験をおこないました(図4-1)。

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この二つの食事の内容はきわめて対照的で、1食あたりローカーボ食では糖質:脂質:タンパク質は9:42:23g、ハイカーボ食(当時の糖尿病学会推奨)は73:12:23g、エネルギーは共に500kcalでした。糖質と脂質が対照的となっています。ローカーボ食では食前から120分まで血糖はまったくと言ってよいほど上昇せず、ハイカーボ食では食前の129mg/dlから1時間後の229mg/dlまで100mg/dlも上昇しました。それを受け、食餌に伴うインスリン分泌はローカーボ食ではわずかなレベルに留まりましたが、ハイカーボ食では75gぶどう糖負荷試験(OGTT)と統計的に同じレベルにまで上昇しました。この負荷試験から、食後血糖を上げインスリンの分泌を促進するのは糖質であり、脂質やタンパク質ではないことが理解できます。

 生理・生化学的に見ると、糖質は小腸で消化吸収されますが、吸収は小腸粘膜細胞のSGLT-1と呼ぶナトリウム・グルコース共輸送体を介した能動的膜輸送です。動物ではATPのエネルギーを消費してNa+-K+ポンプによって細胞内のNa+濃度と膜電位が低く保たれているため、Na+には細胞の外から内へ逆流する力が恒に働いています。グルコースはこの力を利用して細胞内へ吸収されます。ATPは食べた糖質や脂質を分解した時に発生するエネルギーを体内のどこでも利用できるかたちで蓄えた生物共通のエネルギー通貨です。従ってSGLT-1を介するグルコースの吸収はエネルギーの消費を伴う能動輸送です。このような輸送を生理学では二次的能動輸送と呼んでいます。吸収されたグルコースは小腸から血流により体内各所へ運ばれて利用されます。デンプンと食塩とを一緒に食べるスナック菓子などを食べ過ぎると肥満や血糖異常に繋がりやすいのはこのためです。一方、脂肪は小腸で消化されてモノグリセライド、脂肪酸、グリセロールに分解されて上皮細胞内に入り、再度中性脂肪(トリグリセライド TG)に合成された上でリン脂質、リポタンパクに包まれて水溶液に馴染むカイロミクロンという粒子となってリンパ液を経て血流に乗り、主に脂肪組織、筋肉へ運ばれてエネルギー源として利用されたり貯蔵されたりします。ヒトの体内で最も多い貯蔵エネルギーは脂肪です。

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