医療機関の皆様へ
はじめに
ようこそ日本ローカーボ食研究会のホームページへ。
日本ローカーボ食研究会は、糖尿病・メタボリック症候群にローカーボ(糖質制限、低炭水化物)食による安全で有効な治療法を確立するために2011年3月、医師、管理栄養士らが、生活習慣病患者さんと協力して設立しました。設立に参加した医療機関では、すでに数千人の患者さんがローカーボ食による治療を受けており、血糖コントロール・脂質異常・体重減少などに著しい効果を上げています。
ローカーボ(糖質制限、低炭水化物)食の歴史は1970年代アメリカの“アトキンス・ダイエット”の出版から始まりました。このダイエットは厳しい炭水化物・糖質制限によって体重を減らすのが主目的でした。日本におけるローカーボ食は、2005年江部康二氏らの『主食を抜けば糖尿病が治る』を初めとして様々な糖質制限食からスタートしています。日米ともこのような民間療法のかたちで始まったことによってローカーボ食の裾野は広がりました。しかしその一方で、最近まで医学的な基礎・臨床研究による科学的に根拠のある論文もなく、議論もなされてきませんでした。その結果、ネットや一般書を通じて医療機関や患者さんたちへも科学的に検証されていない情報が氾濫する状況となりました。
海外でのローカーボ食の医学的研究はアトキンスから遅れること30年、しかし、すでに数百編もの英論文があります。他の研究分野と大きく異なる点は動物実験がきわめて少なく臨床研究がほとんどです。これは、ローカーボ食が基礎研究を抜きにしていきなり患者さんたちへ民間療法として試されたという歴史を物語っています。
最近では、ローカーボ食と従来のカロリー制限食を比較したハーバード大学による大規模・長期コホート研究(女8.5万人26年間、男4.5万人20年間)が登場するに至りました。そして、脳血管死だけでなく癌も含めた総死亡数で比較すると、ローカーボ食を厳しく実行すればするほどカロリー制限食に比べて死亡率が上昇していくことが明らかとなりました。一方で患者さんの食事日記を栄養学的に解析してそれを基に指導を工夫すれば、逆にカロリー制限食より死亡率が減る可能性も示唆されました。
この研究会の目的
このような世界のローカーボ食研究の流れからみると、現在日本で流布しているローカーボ(糖質制限、低炭水化物)食のあり方を大幅に修正せざるを得ない状況です。しかし、残念なことに、これらの研究はすべて英語で書かれています。私たちローカーボ食研究チームも臨床研究を英論文で発表していますが、日本語での臨床研究や科学的総説は未だ皆無です。ネットや一般書からローカーボ食情報を得ている医師・管理栄養士・看護師・保健師の皆様は、このような厳密に解析されたローカーボ食の科学文献に接する機会はほとんどないのが現実ではないでしょうか。
そこで、日本ローカーボ食研究会は以下の目的のために、医師・管理栄養士が志を一つにして結成しました。
(1)臨床研究に基づくローカーボ食の効果・利点だけでなく、弱点も正確に把握すること。
(2)最新のローカーボ食に関する海外の科学的文献を多くの医療関係の方々へ広め、共有すること。
(3)ローカーボ食の安全性や有効性を闊達な科学的議論によって吟味し、正しい実施方法を患者さんに提供すること。
(4)ホームページの公開と定期的な研究集会の開催。
ローカーボ食の科学的な教科書がない現状で、このホームページの「ローカーボ食について」の解説は、2011年春までのローカーボ食に関するほとんどの重要な海外文献や私たちの臨床研究の成果を網羅しています。また管理栄養士による具体的な食事指導法も記載したので、ローカーボ食の教科書として十分機能するでしょう。またフォーラムでは、海外のローカーボ食の最新研究や専門医の意見などを掲載して、それに対して医療関係者が活発に議論できるように掲示板形式を採用しています。
日本の医療機関に携わる多くの人たちがこのホームページや定期集会で出会うことによって、学習し、議論し、研究をしながらローカーボ食という光り輝く原石を磨き上げ、コツコツと安全性と有効性を証明していくことが、患者さんたちへ誠実なローカーボ食を届けることになります。医師や管理栄養士がローカーボ食を希望する患者と出会ったとき、ローカーボ食の科学的知識を持っているなら患者さんと一緒に取り組めるでしょう。また大病院では治療方針をローカーボ食に統一するには長い時間が必要ですから、ローカーボ食の普及と発展には開業医の役割が重要です。
医師だけでなく管理栄養士、保健師、看護師、薬剤師、臨床検査技師など幅広い職種の方々がここに参加して、ローカーボ食について大いに研鑽していただけると本望です。