第5章 ローカーボの分類
日本ローカーボ食研究会代表理事
灰本クリニック 院長 医師 灰本 元
糖質制限食は糖質摂取を制限して脂肪摂取を増やすことが基本です。具体的な指導法は管理栄養士の担当ですが、穀物、芋、糖質を多く含む野菜・根菜類、果物、醸造酒、穀類を原料とするお菓子、砂糖や乳糖を多く含むお菓子などを制限する方法を指導します(図5-1)。
それ以外は何を食べてもよいのですが、脂肪をたくさん含む食品や料理を食べてもらいます。しかし、すべてから糖質を除去するものではありません。以前は、毎日の食事から糖質を完全に除去しようとする患者もたくさん来院したのですが、厳しい糖質制限の弊害が知れ渡るようになると、めっきり少なくなりました。
わたしたちは、糖尿病の重症度に応じて糖質制限のレベルを数段階に調整しています。図に示すように血糖とインスリンの分泌は3食とも糖質を食べる場合(A)、夕食から糖質を制限する場合(B)、及び朝夕食から糖質を制限する場合(C)とで異なります(図5-2)。
図Cはやや厳しい糖質制限に該当します。この場合、昼食では糖質を食べるので、たとえば午後1時に昼食を取ったとしてその10時間後、つまり午後11時後までは血糖をエネルギー源として使います。しかし、糖の供給が減少し始める午後11時頃から翌日の昼食までは、不足分を毎食ごとに食べる脂肪や貯蔵していた脂肪を分解してエネルギー源として利用し、不足するエネルギーの補填に当たります。言い換えると、午後11時頃から翌日の午後1時までは脂肪がエネルギー源として主役になるのです。脂肪は親水性のリポタンパク質で包むか、肝臓で水溶性のケトン体にまで分解するかして血流に乗せ、各臓器・細胞へ運んでエネルギー源として利用します。
糖質摂取を制限するだけでは新たにエネルギー不足による健康障害の発症を招きます。不足分を脂肪により補えば、血糖値を上げることなくこの危険を回避できます。
上記の知識を踏まえたうえで、表(図5-3)をみましょう。
これはFeinmmanらによる糖質制限食の分類です。生化学的な分類は一日中ケトン体をエネルギー源とするketogenic dietはきわめて厳しい糖質制限食です。一日の糖質摂取量にしてだいたい130g以下を糖質制限食(Low-carbohydrate diet)、50g以下をきわめて厳しい糖質制限食(Very low-carbohydrate diet)と定義しています。一方、ある時はケトン体、ある時は血糖をエネルギー源とするnon-ketogenic dietをゆるやかな糖質制限食(Moderate low-carbohydrate diet)と定義します。わたしたちが行っているのはゆるやかな糖質制限食のなかでも、さらにゆるやかな糖質制限と言えます。それは一日の糖質摂取量にして170-230gを目標としていて、長期に続けることができかつ確実な治療効果が期待出来ます。糖質を一日2食から完全に除いて間食からも抜くとだいたい一日130g未満、多くは100g前後となります。1食から抜けばだいたい一日200g前後の摂取となります。
厳しい糖質制限食は短期間(数ヶ月)であれば問題ないのですが、長期間(数年以上)続けるといろいろな健康障害を発症します。詳しくは第10章で解説します。