議 論
今回の研究が示したのは1)HbA1cの平均低下は男性で1.5%、女性で0.9%、一方、総糖質の平均減少量は男で115.3g/日、女で63.6g/日であった。2)男女ともΔ総糖質はΔHbA1cと正の強い関係があり、総糖質の50gの低下は男性ではHbA1c0.43%、女性で0.45%の低下と関係した。3)Δソフトドリンク由来糖質、お菓子由来、米由来、パン由来、ラーメン由来はΔHbA1cと正の弱い~中等度の関係があって、男性ではこれら由来の糖質50gの減少はHbA1cの低下1.33%、0.88%、0.34%、0.63%、0.82%とそれぞれ関係した。4)女性ではΔ米由来とΔお菓子由来の糖質がΔHbA1cと正の弱い~中等度に関係しており、それらの50g糖質減少はHbA1cの低下0.34%、0.67%とそれぞれ関係した。5)ソフトドリンク由来、お菓子由来、パン由来、ラーメン由来の糖質摂取量の低下はたいへん少量で男性では米由来糖質の1/5から1/10、女性ではお菓子由来の糖質摂取量の減少も少量で米由来糖質の1/3であった。
臨床的な視点から考えるべき二つの交絡因子がある。第一にΔBMIについて、Model 1にΔBMIを加えて調整したときとModel 1で調整したときと比べると、糖質源の有意差は女性ではΔお菓子の回帰係数はややわずかに低下したが、男性でも女性でも基本的に変化はなかった。糖質減少のHbA1c低下への影響は一部には体重低下を介しているので、ΔBMIは統計学的に中間変数と考えられる。したがって、私たちはΔBMIを除いたModel 1による調整が臨床的に信頼できると考えた。
第二にΔ米由来糖質ではModel 2のΔエネルギーをModel1に加えて調整するとその有意差は消えた。このことは、研究期間中に10%~20%の総エネルギー摂取量が低下したことと関係があるかもしれない。男女とも研究期間中に糖質摂取量だけが減って脂質摂取量と蛋白摂取量は増えているので、総カロリーの減少は糖質摂取量の減少が原因である。米は日本では中心的な糖質源であり、この研究では米由来の糖質減少は総糖質減少のおよそ50%を占めていた。私たちの目的は、米を主食とする日本を含む東アジア、南アジアにおける患者に与える食事指導法の有益な情報を得ることである。私たちはいろいろな糖質源の単位当たりの減少に相当するHbA1cの低下度を知りたいのである。たとえ、HbA1c低下の一部はカロリー低下が原因だとしても、Δ総エネルギーによる調整は主食由来の糖質、とくに米由来糖質の回帰係数を過小評価に導くだろう。したがって、私たちはModel1(ΔBMIとΔ総エネルギーを除いた)で調整した回帰係数を臨床的に信頼できると考えた。
患者は数多くの種類の糖質源を消費しており、日常的には三つの主食、米、麺、パン(これらは総糖質の60%にも達する)と同時に非主食由来の糖質源も消費している。この点から、男性でΔソフトドリンク由来とΔお菓子由来糖質はΔ3種類の主食由来の糖質で調整しても有意性を保った。これは上記の非主食由来糖質の減少のΔHbA1cへの効果は3種類の主食由来の糖質とは独立していることを示している。
少量の減少にも関わらず、男性では回帰係数が最も高かったのはΔソフトドリンク由来、その次にΔお菓子由来、ラーメン由来、パン由来、米由来と高い順に続いた。それらのΔ糖質源のΔHbA1cへの影響は、Δ米由来に比べてソフトドリンクは4倍、お菓子では2.5倍、大きかった。これは、従来の糖質源の効果を無視したゆるやかな糖質制限食を実行した何人かの患者では私たちの予想以上にHbA1cが下がりすぎた理由である。私たちはソフトドリンクの過剰な消費によってHbA1cの急激な悪化をしたしば経験するが、私たちの結果はこれを明快に説明することができる。大規模長期コホート研究は厳しい糖質制限を実行した患者は癌や心血管障害による死亡が増えることを示している。したがって、患者はよりゆるやかに糖質を減らす、つまり、ゆるやかな糖質制限食を必要としている。注目すべきは、治療前において41%の男性患者、59%の女性患者は総糖質の40%以上をソフトドリンク、お菓子などの非主食由来の糖質を消費しており、これは決して無視できない。臨床現場では、患者は米よりも優先的にソフトドリンクあるいはお菓子などの非主食由来の糖質を減らすべきだ。私たちの結果は、少量の糖質源の減少によっても効果的なHbA1cの低下を可能にするだろう。
Δパン由来とΔラーメン由来糖質量は少なく、Δ米由来の1/7~1/10である。これらのΔHbA1cとの関係は弱いが、それらの50g糖質減少はHbA1cの0.63%、0.82%減少とそれぞれ関係し、米由来の2~2.5倍も大きかった。その可能性がある説明は、ラーメン一食には塩分7g、パン一食には2gの塩分、米(0g塩分)と比べるとかなり高濃度の塩分を含んでいる。血糖の小腸で起こる吸収はナトリウムグルコース共輸送体(SGLT-1)を介しており、それはナトリウムの噴出によって作動される。また、動物実験は、食事中の塩分濃度は小腸のSGLT-1の発現を増加させるによって小腸での血糖の吸収を増やすことを証明している。食事中の塩分の血糖への影響についての臨床的なデータはないが、理論的には塩分を多く含む食品が強い血糖上昇効果を持つことはありうる。この観点から、塩分を多く含む糖質源のHbA1cへの効果についてはさらに研究が必要である。
一つの疑問は、男性ではΔソフトドリンクやΔお菓子由来の糖質はΔ米由来糖質よりも平均値が非常に少なかったにもかかわらず(およそΔ米由来の1/5)、それらはなぜΔHbA1cと強い関係があったかである。統計的な観点から見ると、Δソフトドリンク由来やΔお菓子由来の平均糖質値は低いにもかかわらず、SD(標準偏差)はより大きかった、一方、Δ米由来糖質はその逆であった。このことはより強い関係性を生じることになりうる。詳しく説明すると、男性の73%の患者はソフトドリンク由来の糖質を食べないか少なく(1日0.5g未満)、彼らの治療前のHbA1cはより低く、その後もソフトドリンク由来の糖質の減少はわずかを示し、HbA1cの変化もほとんど見られなかった。対照的に、残りの27%の男性患者は治療前により大きいソフトドリンク由来糖質とHbA1cを有しており、彼らはソフトドリンク由来糖質の減少幅は大きく、HbA1cの低下も大きかった。臨床的な観点から見ると、グライセミックインデックス(GI)が糖質を含む食品の血糖値への相対的な影響を示す指標である。低いGI値の食品を消費するとその結果、HbA1cは0.2%~0.5%低下する。私たちのいろいろな糖質源のHbA1cへの異なった効果は、一部はそれぞれの糖質源のGIで説明できるかもしれない。米のGI値はソフトドリンクやお菓子よりも高いから、当然、Δ米由来糖質はΔソフトドリンク由来やΔお菓子由来よりもΔHbA1cへの影響は強いと期待された。しかし、結果はその逆であった。その理由は明らかではないが、私たちの結果はGI値という点からだけでは説明できないことは興味深い。これらの結果はいくつかの糖質源を減らすことは、GI値の低い食品を食べるより臨床的に有用であることを示唆する。
いくつかの糖質源の減少(男性の総果物と乳製品、女性の小麦を基礎とする食品、ソフトドリンク、総アルコール)について考えると、スピアマン係数と重回帰分析の結果に乖離があった。一つの説明は外れ値の存在である。しかし、外れ値は統計学的に定義されていないので、いくつかの外れ値を除くことは恣意的になる危険性がある。もう一つの説明は、多くの患者はこれらの糖質源を日常的に消費しているが、それらの平均値は非常に少ない(0.4~5.3g/日)。少ない量の糖質源や果物のように季節変動がある糖質源の効果を評価するために、さらに研究が必要である。
いろいろな糖質源の低下とHbA1c減少の関係には性差があった。ΔHbA1cとの正の中等度~軽度の関係は、男性ではΔソフトドリンク、お菓子、米、パン、ラーメンに、女性ではΔ米、お菓子に見られた。これらの違いは、男女の食習慣の違いによって説明することができるだろう。6ヶ月間に1日5.0g以上の糖質量低下とその低下が統計学的に有意という二つの条件を満たす糖質源は、女性では二つあって米とお菓子だったが、対照的に男性では6つあり、米、ラーメン、パン、お菓子、ソフトドリンクとビールだった。
私たちの研究の第一の強みは、治療前3ヶ月から研究終了まで糖尿病薬を飲んでない2型糖尿病患者だけを対象にしたことである。糖尿病薬を服薬することは食事療法によるHbA1cの正味の変化に間違った理解を導くだろう。もう一つの強みは糖質源を解析するために食事日記の使用にある。2型糖尿病の食事管理に使われる食品頻度質問紙法あるいは24時間思い出し法は、食事日記法に比べて糖質摂取量の評価法として妥当性が低い方法である。
私たちの研究の第一の限界は、3日間の食事日記は主食ほどの頻度が高くない糖質源由来の糖質量について正確な情報を得るのは十分ではないことである。より長い期間の食事日記が必要であろう。第二の限界は、私たちの患者の治療前の平均糖質摂取量は一般的日本人のそれ比べていくらか少ない。患者らは初診時以前に糖質摂取についてすでに注意していたか、あるいは彼らが食事日記に糖質を多く含む食品を過少報告したかもしれない。第三の限界は、私たちは余暇運動の変化を考慮に入れていないことである。余暇運動の6ヶ月間の変化のデータはわずか47人の男性と36人の女性、全患者の1/3で評価できた。患者に研究期間中は余暇運動を維持するように要求したが、47人の男性患者はそれを増やしたが、女性患者ではそれは変化しなかった。この患者数は回帰分析を行うには少なすぎた。それで、すべての患者の余暇時間の変化という交絡因子を十分に調査するために、私たちはさらなる研究が必要とする。第四の限界は、私たちの結果は主な糖質源が米である東アジアや南アジアの2型糖尿病患者には役立つだろうが、主な糖質源が米ではない欧米の患者に有用性は高くないだろう。
まとめると、245人の糖尿病薬を服薬していない外来2型糖尿病患者が6ヶ月間のゆるやかな糖質制限食を行った。異なる糖質源HbA1cへの効果に焦点を当ててみると、ソフトドリンク由来、お菓子由来、パン由来、ラーメン由来の糖質を減少すると、同じ量の糖質量を米由来から減らした場合と比べて、男性患者は2~4倍強いHbA1c低下を達成した。一方、女性患者はお菓子由来の糖質減少は同じ量の米由来の糖質減少に比べて、2倍強いHbA1c低下を達成した。私たちの結果に基づいた食事情報は患者に効果的にHbA1cを低下させることができるだろう。