日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

印象記1

小早川医院 医師 小早川裕之先生

 去る12月3日、名古屋駅前の安保ホールでローカーボ食研究会の定期勉強会が開催されました。今回も多くの管理栄養士と医師、看護師が参加し、活発な議論が行われました。
恒例の症例検討では灰本クリニックの灰本 元先生が、初診時の随時血糖 664mg/dl, HbA1c13.8%という重症2型糖尿病の症例を呈示されました。
尿中ケトン体も陽性で急激な体重減少もあり、通常なら即入院となるような状態でしたが、患者の病識が皆無であり、入院治療や外来でのインスリン導入に対する同意がまったく得られなかったこともあり、ローカーボ単独(3CARD)による治療が選択されました。その結果はHbA1cがわずか3か月で5.7%まで低下するという素晴らしいものでした。糖質摂取量は611gから26gへと劇的に減少しました。その後1CARDに緩めた時点でも糖質摂取量は170gで、当初に比べると大幅に少ない値でした。全く病識もなく、食に関しても無頓着な患者がここまでできたのは、医師や管理栄養士が患者さんの生活環境や嗜好などを考慮して、精力的にきめ細かい指導を続けた成果であると感じました。
 ただ、残念なことにこの患者さんはある程度よくなると通院しなくなり、久しぶりに来院したときには再びコントロールが悪化しているというパターンを繰り返しているとのことでした。611g/日もの糖質を摂取していたということは、一種の「糖質依存症」のような状態であり、禁煙治療後の患者が一本のもらいタバコを機に再びヘビースモーカーに逆戻りしてしまうのと同様に、この患者も糖質制限を緩めて少しずつ糖質を増やしていくと益々糖質を要求するようになり、結局は元の木阿弥になってしまうのではないかと推察しました。
 次に、臨床講義として灰本 元先生が「どの食品由来の炭水化物がHbA1cの上昇と相関するか?」というテーマで講演されました。一般的には主食由来の炭水化物より嗜好品やソフトドリンクに多く含まれる単純糖質の方がHbA1cの上昇により大きく寄与しているということでした。栄養指導の際に、単に糖質の総量を評価するだけでなく、その内容にまで踏み込んでゆく必要があると感じました。また、個々の患者の嗜好に合わせて、減らす糖質の種類を調整してゆくことも大切だと思いました。
 最後に、臨床栄養学講義として、灰本クリニックの管理栄養士である渡邉志帆さんが、やせの糖尿病患者を肥らせて、適正体重を維持しながらHbA1cを改善するという非常にユニークなトライアルの成果を発表されました。この方法は、「糖尿病は肥満の方がなりやすいが、糖尿病が発症した患者では、やせよりも肥満の方が長生きする」という肥満パラドックスに基づいています。具体的には、やせの糖尿病患者に脂質および糖質摂取量を増やすような栄養指導を行い、HbA1cのある程度の悪化は容認しつつ、適正体重を目指して体重増加を図るものです。体重増加が見られない場合には、インスリンやSU薬も使用します。
 当院でも、糖質制限食を導入して以来、「やせすぎない」ということを大前提として栄養指導を行ってきましたが、「血糖コントロールを犠牲にしてでも適正体重を目指して肥らせる」という発想はありませんでした。おそらく他の施設でも同様だと思われます。それゆえ、この方法は糖尿病治療におけるパラダイムシフトと言えるでしょう。
今回、私自身久しぶりに定期勉強会に参加させていただきましたが、糖質制限の有効性を再認識するとともに、糖尿病治療、糖質制限の新たな方向性を学ぶことができ、大変有意義な会であったと思います。

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