日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

第4回定期勉強会印象記:小早川医院 小早川裕之

第4回日本ローカーボ食研究会勉強会 印象記

小早川医院 小早川裕之

 去る10月20日、「糖尿病治療の新戦略」と題して第4回勉強会が開催されました。会場は、名古屋駅から徒歩7~8分の名古屋プライムセントラルタワーという近代的なビルの13階にありました。製薬会社との共催は今回で2回目ですが、今回は前回よりもさらに大きな会場が用意されていました。
開会直後は空席もみられましたが、開会後30分ほどで用意された座席がすべて埋まり、椅子を追加しなければならないほどの盛会となりました。

 最初に灰本クリニックの灰本先生が「糖尿病のローカーボ治療~新たな治療戦略の提案」というテーマで講演されました。
前半はローカーボ食の原理や具体的な指導法、カロリー制限食と比較した場合の優位性をわかりやすく解説され、ローカーボ食のHbA1c、脂質、BMIに対する優れた改善効果を、自院の患者さんを対象にした臨床研究のデータを交えて明らかにされました。
 後半では、海外の大規模研究のデータに基づいて、厳しい『糖質制限』では総死亡が増えるが、植物性脂肪・タンパク質を中心とした『ゆるやかローカーボ』では総死亡は不変かあるいは減少する可能性が高いことを示されました。そして、糖尿病の重症度(HbA1cの値)に応じて炭水化物制限の程度を層別化することにより、必要以上に厳しい炭水化物制限を避ける必要があることを強調されました。
 灰本先生のお話を伺って、糖尿病の食事療法に関する議論のポイントはもはや「カロリー制限食と炭水化物制限食のどちらが優れているか?」ではなく「ゆるやかなローカーボ食と厳しい糖質制限食、どちらが適切な食事療法か?」という点に移ってきていると感じました。

 次に、東京都健康長寿医療センター内科の荒木 厚先生が「高齢者糖尿病の治療~血糖変動を中心に~」というテーマで講演されました。
 先生は血糖変動と認知機能の関係について多くの臨床データをもとに解説されました。その要点をまとめると以下のようになります。
① 低血糖の頻度が高いほど総死亡が増えるとともに認知症を発症する危険性が高まる。
② 血糖コントロールが悪い人ほど認知症になりやすい(HbA1cが7以上の人は7未満の人に比べて4.8倍認知症を発症しやすい)。
③ 食後高血糖を防ぐことが認知機能低下の予防につながる。
高齢者糖尿病では食後高血糖を防ぎつつ低血糖も起こさないような配慮が必要であり、低血糖を起こしやすいような虚弱な高齢者ではHbA1cのコントロール目標をやや高めの7.5~8.5%(NGSP)に設定する必要があるとのことでした。
 先生は、最近普及しつつあるCGM(持続血糖モニター)によるデータも示され、血糖変動の大きさを表わすMAGE(Mean Amplitude of Glycemic Excursions) という概念にも言及されました。MAGEが大きくなるほど酸化ストレスが増し、その結果動脈硬化が進行して冠動脈疾患が増え、認知症の頻度も高まることを明らかにされました。MAGEはHbA1cよりも優れた冠動脈疾患の予測因子であるとのことでした。
荒木先生のお話を伺って、私が今まで糖尿病の臨床をやってきて何となく感じていたことを、客観的データで裏付けていただいたような気がしました。糖尿病の患者さんの健康長寿を実現するためには、低血糖を避けながら食後高血糖も防止することが肝要です。ローカーボ食はそれを最も容易に実現できる手段だと思います。

 今回は、前回にも増して多くの参加者があり、糖尿病専門医やローカーボ食を実施していない医療機関の管理栄養士の方も出席されていました。ローカーボ食に対する関心、認知度が明らかに高まっていることが実感できました。今後もこの会がさらに発展し、適切なローカーボ食が普及していくことを祈念しております。

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