日本ローカーボ食研究会

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日総研セミナー ローカーボ食セミナー参加者の感想

 前回(23.6.19)の講演は、ローカーボ食による糖尿病治療の基礎から臨床においての総体的な内容でしたが、今回(23.12.4)の講演は症例が中心でした。それぞれの症例は病態や治療経過が多種多様で、その内容は、ローカーボ食導入によってすんなりSU剤を中止できた例、SU剤をやめたら悪化した例や悪化したためにメトフォルミンに変更した例、糖尿病ケトーシスの例、2型糖尿病でインスリン使用例、1型糖尿病の例、LDLが上昇、低下した例、高血圧が影響する例、尿中アルブミンを効果的に低下させた例、インスリン治療中に虚血性心疾患、心不全や癌がからんできた例などでした。

 総論の内容で注目したいのは、Currieの「HbA1cと総死亡率」の論文です。糖尿病治療中の患者において、HbA1cを上げすぎても逆にHbA1cを7.0より下げすぎても総死亡率は上昇するという内容です。HbA1cは高血糖と低血糖が相殺されて見かけ上正常値を示すので、食後および食前の血糖測定は重要になってきますが、頻回の測定が必要になります。開業医レベルでの糖尿病診療において、HbA1cの値が6.5くらいを目標として経過観察すればよいのでしょうか。(糖尿病性網膜症があれば6.5くらいが目標)

 SU剤の使い方やメトフォルミンの特徴に関して、実践的で非常に参考になりました。SU剤の使い方では、SU剤の継続の判定にはOGTTのAUC-insulinがある程度参考になる、HOMA-R、TGやHDLはCARDを実行しているかの目安になる、体重増加と発癌に注意するなどです。メトフォルミンの特徴では、ローカーボ食と同方向の作用である、体重が減り食欲が落ちる、大用量でHbA1c減少効果が強い、長期の内服で発癌が減るなどです。

 入院を必要とするような重症糖尿病症例においてもCARDの有用性に目を見張りました。 糖尿病ケトーシスを伴う重症例に対し輸液を行いなが3CARDで軽快した例では、従来なら入院してインスリン注射をしていた症例ですが、3CARDはインスリン治療と同じであるという概念には驚きで考えさせられました。

 インスリン治療中の2型糖尿病では、癌発生の予防としてメトフォルミンの用量を多めに必ず使用するという方針でした。最近メトフォルミンの2250mgの高用量が1500mgより有意にHbA1cを低下させたとし、メトフォルミンが用量依存性に血糖改善効果を有する報告を見ました。

 やせ型糖尿病で高度のインスリン分泌不全を合併した例では、すでに3CARDで体重が低下している場合には、これ以上体重を減らさないために、3CARDから2CARDへ緩めるといった、CARDの程度を臨機応変に調節する柔軟さが必要であること教えていただきました。

 1型糖尿病の症例では、1型こそCARDが効果的であるということでした。注意点として低血糖をおこさせない、インスリン注射を抜いても血糖が上昇しないことを確認させること、HbA1cの目標値を下げすぎないようにすることなどでした。CARDによってインスリン注射量が減りひいては低血糖発作がなくなるということと、治療の目標である食後血糖値が下がることにより食前血糖値との差が減少してくるというよい結果が得られます。当院の1型糖尿病の症例にも自信を持ってCARDを勧められます。

 腎症Ⅲ期症例の長期観察例では、尿中アルブミンを低下させるには血圧、血糖、脂質といったすべての因子の総合的治療があって初めてなしえるということと、ここでもメトフォルミンの大用量が有効であるということでした。今更ながら血圧の厳格なコントロールとCARD、メトフォルミンとスタチンの併用による血糖、脂質の管理が必要であると勉強しました。

 管理栄養士の篠壁先生からはCARD食を指導する際の気をつける点として、その人の職業、家族環境、食事は誰が作るか、一日の仕事を含めた活動量、食事の嗜好、性格など、食事日記だけでなく、その人すべてを知ることから糖尿病の治療は始まるということを講演していただき、うわべだけの医療では不十分で、その人の内面まで立ち入ってきめ細かい的確な把握が必要であることを教えていただきました。栄養相談のポイントでは、医療の影響を加味しながらCARD食を実行するにおいての注意点を的確かつ簡潔に表現されているのと、その指導の背後には患者に対する暖かな毎回の励ましが存在していることが感じられました。

 今回の講演を受けて、その講演内容は言うに及ばず、それにも増してよかったのは灰本先生のご診療をまるで間近で拝見している気分になったことです。先生が苦労されて作られた実践的で詳細な資料をわずか4~5時間で拝聴し、さらに貴重な診療のエッセンスを提供していただいたことに感謝いたします。

森医院 森晃基

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