日本ローカーボ食研究会

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体重、肥満と総死亡

日本人の理想のBMIとは

昔からBMI=22がもっとも理想といわれてきたが、それが正しいならBMI>25は肥満=悪者扱いにされてします。しかし、その科学的根拠を調べてみたら、きわめていい加減であることがわかった。アメリカでは心筋梗塞が死因のトップであるが、日本では癌死がトップである。最近の大規模研究で日本では痩せている方が総死亡は多く、少し肥満の方が長生きであることがわかってきた。

日本とアメリカの違い

メタボリック症候群の概念はアメリカから提案されて、日本へも輸入された。ところが、アメリカと日本では疾患概念も肥満率もまったく異なっている。アメリカではBMI>25のoverweightは人口の2/3、BMI>30の肥満は1/3に達する[1]。一方、日本ではBMI>25はせいぜい人口の1/4である[2]。また、アメリカの死因第一位は心筋梗塞(総死亡の約1/3)であって癌ではない。一方、日本では第一位は癌(総死亡の1/3)で、心筋梗塞死はわずか8%でしかない。したがって、肥満と疾患の関わりについてこの二つの国を同列に扱うのは非科学的である。

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日本人の体重、肥満と総死亡

日本には10万人規模の大規模コホート研究には主要な研究グループが二つあり、国立がんセンターが主催するJPHC研究と全国の大学や医療機関で組織されたJACC研究(現在の主幹は愛知医大)である。前者は約10年、後者は20年追跡している。この二つの大規模研究から、肥満と総死亡に関係する論文が発表されており、メタボリック症候群とは真反対の結果となっている。

結果を図示すると一目瞭然である。JPHCでは全年齢、JACC研究では65歳以上と対象に違いがあるが、言わんとするところはほぼ同じである。JPHCでは、男性ではBMI23-27が最も総死亡が少なく、それより痩せていても太っていても総死亡が増加するが、痩せている方でより総死亡が多い[3]。女性では死亡数が減るBMIはもっと幅広い。Cancer_center_BMI_and_mortality.jpg

JACC研究では65歳以上に限定すると、BMI22-30まで総死亡は同じレベルで、肥満になっても総死亡は増えない。逆にBMIが22を境に痩せれば痩せるほど総死亡は増えていく[4]。

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これから想像してみると、日本の70歳以上の1/2は癌か肺炎が死因であり、極端に言うと飲まず食わずでどれだけの期間生き延びれるかの勝負、つまり消耗戦となる。脂肪を蓄えておいた方が有利なのは当然である。

BMI=22には科学的根拠がない

それでは昔からよく言われてきたBMI=22が最も理想という根拠はなんだったのか。コホート研究の専門科の意見を聞いて、さらに総説を読むと、単純にBMI=22付近でLDLコレステロールとHDLコレステロールが適度な値になるというだけであった。これも虚血性心疾患だけをターゲットにしており、脳血管障害、癌、その他の死因を含む総死亡が減るという根拠はどこにもないことがわかった。医学の分野でもうわさがうわさを呼んで誰もその実態を確かめようとはせず、間違った刷り込みが長年続いていたことに驚いたと同時に私たち医師も反省しなければならない。

日本では低体重の方が問題

私の医院は高血圧や糖尿病患者も多いが、私がかつてがんセンターに勤務していたこともあって癌の診断にも力を入れている。個人的な臨床感覚ではJPHCやJACC研究は正しいと思う。JHPCを主催している国立がんセンターの津金らは、日本では肥満より低BMIを問題視している[5]。

このように日本では肥満を基礎にしたメタボリック症候群はせいぜい死亡の8%しか占めない虚血性心疾患にだけ適応できるかもしれないが、癌や肺炎にはまったく適応できないどころか本質からずれている。患者は虚血性心疾患にならなくても癌で死んだら意味がない。総死亡で見るならBMI23-25のややぽっちゃり型が最も有利である。

引用文献

1. Hammond RA, Levine R: The economic impact of obesity in the United States. Diabetes Metab Syndr Obes 2010;3:285-295.

2. Matsushita Y, Takahashi Y, Mizoue T, Inoue M, Noda M, Tsugane S: Overweight and obesity trends among Japanese adults: a 10-year follow-up of the JPHC Study. Int J Obes (Lond) 2008;32:1861-1867.

3. Tsugane S, Sasaki S, Tsubono Y: Under- and overweight impact on mortality among middle-aged Japanese men and women: a 10-y follow-up of JPHC study cohort I. Int J Obes Relat Metab Disord 2002;26:529-537.

4. Tamakoshi A, Yatsuya H, Lin Y, Tamakoshi K, Kondo T, Suzuki S, Yagyu K, Kikuchi S: BMI and all-cause mortality among Japanese older adults: findings from the Japan collaborative cohort study. Obesity (Silver Spring) 2010;18:362-369.

5. Tsugane S: Alcohol, smoking, and obesity epidemiology in Japan. J Gastroenterol Hepatol 2012;27 Suppl 2:121-126.

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