2021年、私たちのゆるやかなローカーボ食(4)-糖質源によってHbA1cへの影響は全く異なる-
灰本 元
1980年代に発表された糖質源別負荷試験(パン、米、芋、果物、Diabetologia 1983年)では、食後血糖値は果物、芋、パン、米の順に高くなっていたが、その後、糖質源別の血糖値やHbA1cへの影響に関する研究は行われていなかった。
総糖質の半分が米由来なので、総糖質100g制限するとHbA1cは1.0%下がるという2014年の私たちの研究は、米由来糖質の影響が大きすぎた。予想よりもHbA1cが下がりすぎる患者を経験するにつれて、糖質源によってHbA1cへの影響は違うのではないか、栄養相談を進化させるためにはどうしてもこの問題の解決に迫られていた。
糖尿病薬を使わずにゆるやかな糖質制限食だけで治療を行った男138例、女107例を5年間かけて集め、それぞれの糖質源由来の糖質50g(ごはん一杯の重量150gには糖質50gを含む。ラーメン一杯には70g、食パン6切り1枚には30g、ソフトドリンク500mkには50gの糖質を含む)を制限したら、どのくらいHbA1cを下げるのか、統計的な解析を行った。症例を集めるのに時間がかかったのは初診時の3ヶ月前からローカーボ治療後6ヶ月後まで糖尿病薬を使っていない患者を集めるのに苦労したからであった。
ローカーボ治療前後に3日間の食事日記をつけてもらい、13種類の糖質源(米、麺、パン、その他の小麦由来食品、芋、砂糖と甘味料、糖質が多い野菜、果物、乳製品、お菓子とスナック、ソフトドリンク、醸造酒、調味料)の変化とHbA1cの変化の関係について重回帰分析を使って解析し、各糖質源由来糖質50gを減らしたときHbA1cがどのくらい下がるかを計算した。
男性の結果を下図に示した(Haimoto H. et al. Diabetes Metab J, 2021)。米由来糖質がHbA1cへの影響は最も小さかった。それを1とすると、麺由来糖質は1.5倍、パン由来は2倍、中華麺とお菓子由来は2.5倍、ソフトドリンク由来は4倍もHbA1cを下げる効果が強い。同じ糖質50gでもこれほど違うのは驚きであった。一方、女性では男性よ影響は弱く、総糖質由来50gは0.45%、米由来と菓子由来は0.34%のHbA1cを下げた。私たちが2014年に示した総糖質100g減らすとおよそ1.0%HbA1cが下がるという結果は、今回では総糖質50g減らすと0.43%下がるに相当する(100gでは0.86%さがる)。この少しの違いは今回は症例数が倍に増えたこと、薬を使っていない症例に限定した違いが原因であろう。
この結果を受けて、私たちのローカーボ食治療は大きく進化した。米由来を50g制限してもHbA1cがたった0.34%しか下がらないのだから、米の摂取を温存して中華麺、食パン、菓子などから制限したのが得策であり、患者もこの食事療法を抵抗なく長続きできるだろう。ソフトドリンク由来50gは米由来の4倍も下げるので、真っ先に制限するのは言うまでもない。
2004年にローカーボ食を導入した第1例の男性は80才を超えて今も健在である。足かけ16年もかけて、私たちのゆるやかなローカーボ食による栄養指導の方法がようやく完成した。