日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

ノンカロリー人工甘味料への警鐘 -Natureの報告から-

ノンカロリー人工甘味料は腸内細菌の変化を介して耐糖能異常を引き起こす
Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gutmicrobiota Jotham Suez et al., Nature, 514, 2014

灰本クリニック 灰本 元 記 

 2014年のNatureにイスラエルの研究者からびっくりする論文が掲載されています。私は臨床の英論文をたくさん読みますが、Natureを読むことはまれです。この専門誌からたくさんのノーベル賞が輩出していることは衆知の事実で、基礎医学の王道を歩んでいるがゆえに私には理解できないほど基礎的な内容だからです。しかし、この論文はゆるやかな糖質制限食を推進している私としては避けて通れない論文なので読まざるをえませんでした。それは以前からノンカロリーの人工甘味料に対してよい印象を持っていなかったからです。つまり基本的にヒトの味覚をだますという姑息的な考えに基づいていること、それを含む食品を食べている私の患者たちのHbA1cが決して良くないことなどです。とはいってもこの論文の中心となっているのはマウスやヒトへ人工甘味料を食べさせた後の腸内細菌のRNAについて詳細きわまる実験なので内容の正確な理解については私の手に負えませんが、結論は極めて明快です。ノンカロリーの人工甘味料は危険だということです。

 英論文のアブストラクトをまとめると、
①ノンカロリー人工甘味料は腸内細菌の量と機能をかく乱させ、それを通じて耐糖能を悪化させる。
②この人工甘味料による代謝系の悪化は抗生剤によって予防できる。
③この代謝系の障害はノンカロリー人工甘味料を食べたマウスの便(腸内細菌)あるいはノンカロリー人工甘味料の存在下に培養した腸内細菌を無菌マウスへ移植することによって完全に再現できる。
④ノンカロリー人工甘味料によって障害された腸内細菌の代謝は宿主の代謝異常と緊密につながっている。
⑤ノンカロリー人工甘味料によって引き起こされる腸内細菌のかく乱や耐糖能異常は人体でも起こる。
これらは単なる想像ではなく、あるときはマウス、あるときは無菌マウス、あるときは糖尿病に罹患していないヒトを使ってこれでもかこれでもかというほど執念深い実験や臨床研究によって証明されています。論文に掲載された実験結果の図表数は実に70を超えており、ものすごいエビデンスの論文となっています。驚いたのは結果の最後に381人の非糖尿病者でノンカロリー人工甘味料を食べた群と食べなかった群を追跡して、腸内細菌、BMI、OGTT、HbA1cなどの変化を追跡していることです。これだけでも一流専門誌に掲載されるべき内容です。
人体を使った臨床研究ではノンカロリー人工甘味料を食べたとき、耐糖能異常が起こる群(反応群)と起こらない群(非反応群)があることがわかり、それは腸内細菌の違いと密接に関連すること。さらに反応群のヒトの便を無菌マウスに移植するとそのマウスの耐糖能は異常をきたすが、無反応群からの便移植では耐糖能に異常をきたさないことまで証明しています。
 最後に著者らはノンカロリー人工甘味料の摂取は肥満や糖尿病を発症しないという安易な考えに強烈な警鐘を鳴らしています。なお、この研究で使われたノンカロリー人工甘味料はサッカリン、アスパルテーム(商品名パルスイート)、スクラロースで、これらを使ったたくさんの食品が私たちの廻りに出まわっています。
このような人工甘味料を作っている大手の化学メーカーの開発研究者によると、食後3時間までの血糖が上がらないことはわかっているが、その後の代謝経路はまったくわかっていない、つまり、代謝経路は暗黒なのです。この暗黒の世界にこの研究はまばゆい光を射しこんだと言えます。
すでに冒頭で述べたように当院の1000人の糖尿病患者の経験でも大量にノンカロリー人工甘味料を食べている患者はそれを食べた直後の血糖値は確かに上昇していないのですが、HbA1cは常に決してよくありません。そのような患者ではむしろそれを止めさせて一般の砂糖を使うように指導し、その量を制限することによってHbA1cは改善する場合が多いのです。
 このような状況から現時点でノンカロリー人工甘味料を使うのは危険です。
腸内細菌は糖代謝だけではなく免疫、老化、動脈硬化、肝疾患、喘息、神経疾患など幅広い疾患とリンクしていることがわかっており、ノンカロリー人工甘味料によって腸内細菌を長期間にわたってかく乱させることは糖尿病の悪化だけでは済まない可能性もあります。

おすすめコンテンツ

賛助会員

協賛医療機関

医療法人芍薬会灰本クリニック むらもとクリニック