日本ローカーボ食研究会

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”肥満パラドックス”を知っていますか その3

日本における冠動脈心疾患による死亡率の継続的な低下と総コレステロールの持続的かつ顕著な上昇:7カ国調査後の日本の経験

Continuous decline in mortality from coronary heart disease in Japan despite a continuous and marked rise in total cholesterol: Japanese experience after the Seven Countries Study
Akira Sekikawa,et al., International Journal of Epidemiology, 2015, 1614–1624

背景:
 1960年代の7か国研究(The Seven Countries Study)は 日本では心筋梗塞死による死亡が極めて低いことを示し、これは極めて低いコレステロール値が貢献した。1970年代の研究から、アメリカへ移住した日本人の冠動脈疾患の発症率が上がり、したがって、日本人の生活習慣の欧米化によって心筋梗塞死は上昇すると予想された。しかし、1970年以降、日本人の心筋梗塞死は減り続けている。この研究は心筋梗塞死とその危険因子の1980年代以後の傾向を記載し、それを他の先進国と比較した。

方法:
 わたしたちはオーストラリア、カナダ、フランス、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカ、日本を選択した。1980年から2007年までの心筋梗塞死亡率についてはWHO統計情報システムから得られた。既存の危険因子について国際的なデータは文献と国際調査から得られた。

結果:
 すべての国で年齢調整心筋梗塞死亡率は1980年から2007年まで持続的に低下した。総コレステロール値が持続的に上昇した日本を除いて、この低下は総コレステロール値の絶えず続く低下を伴っていた。50-69歳では日本人の総コレステロール値はアメリカよりも高くなっているが、心筋梗塞死はアメリカと比較して男で67%以上、女で75%以上低いままとなっている。他の危険因子の傾向とその程度の変化は日本と他の国の間ではだいたい同じであった。

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まとめ:
 日本人では持続的な総コレステロール値の上昇にもかかわらず心筋梗塞死が低下するのは独特である。観察研究は日本人に特有ないくつかの予防因子が存在することを示唆しているかもしれない。

感想:
 昔からアメリカ人死亡の30%以上は心筋梗塞死に対して日本ではわずか5%の日本人では果たしてコレステロール値をアメリカと同等まで下げる意味があるのか、について相当な批判があった。循環器内科医はコレステロールを下げることしか考えておらず、それ以外の要因や欧米との落差などまったく念頭にないように思える。彼らの講演でも多くは欧米のデータを引用しており自分たち独自のデータを披露することはまずない。したがって、欧米と日本の落差を書投げると今一つ彼らの講演には説得力がない。
2015年以降、EPOC-JAPANやJapan Biobankなどの研究グループから、欧米に依存しない日本独自の研究成果が発表され続けており、頼もしいかぎりである。
これらの結果とわたしの臨床感覚を総合すると、
①中年期、とくに男性ではLDLコレステロールを下げる意味がありそうだが、高齢者では下げる意味があるとは言えそうにない。高齢者とは何歳からか?
②喫煙、糖尿病、高血圧がない患者でコレステロール値のみが高い場合、コレステロール値を下げる意味が今一感じられない。その多くは頸動脈エコーでプラークがなくIMTも厚くない。コレステロール単独で果たして心筋梗塞が起こるかどうか?
 この二つの疑問がわいてくる。大規模観察研究によって、この答えが得られるのはそれほど遠くないようだ。

(医師 灰本 元)

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