日本ローカーボ食研究会

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腸内細菌と病気 その2「抗生剤による腸内細菌への影響と体重」

2015年のネイチャーという有名なイギリスの科学雑誌に驚く記事が載っていました。タイトルは「人生初期の抗生剤と肥満」です。これにはマウス(ネズミ)などの実験動物に抗生剤を投薬した研究と乳児期の抗生剤服薬と10歳までの体重の関係を調べた研究などの総まとめが書いてありました。

 マウスを使った動物実験ではびっくりする結果が報告されています。肥満のマウスから分離した腸内細菌を正常体重のマウスに移植すると(食べさせる、便移植と言います)正常体重のマウスは肥満となり、痩せたマウスの便由来の腸内細菌を食べさせると痩せるというのです。このような腸内細菌は抗生剤を服薬すると破壊されたりかく乱されたりします。複雑なのは、抗生剤を使ってマウスの腸内細菌を完全に破壊した場合と腸内細菌をかく乱するに留めた場合ではその後の体重変化は真反対となることです。つまり、腸内細菌が完全に破壊されると痩せたマウスへ、中途半端に変化すると肥満のマウスになっていくというのです。この事実は太る、痩せるは腸内細菌が大きく影響しているだけでなく、腸内細菌が抗生剤によって人為的に破壊あるいはかく乱されれば、体型が変わってしまうことを示しています。これらの動物実験の方法をそのまま人体で実験するのは人道的に困難ですが、ヒトでも同じようなことが起こっていると予想されています。
 一方、ヒトでは別の研究方法(コホート研究)がたくさん行われています。コホート研究とは住民や患者のデータを登録しておいて、その後の経過を10年単位で追跡するどのような病気が発症あるいは死亡したかを研究する方法です。今回の場合、生後6ヶ月から1歳までの乳児数万人を登録してその後7年から10年後の体重の変化と抗生剤使用の関係を調べています。この方法を使った多くのコホート研究から、生まれて6~12ヶ月までに抗生剤を服薬すると7-10歳に肥満になる可能性が高いという結論となりました。つまり、乳児期の抗生剤服薬は学童になったときの肥満を決定する一因となっていることを示しています。
 日本ではとくに耳鼻科や小児科領域で抗生剤の乱用がずっと以前から指摘されています。私が専門とする内科領域では38度以上の発熱患者の95%はウイルスや気候変化などが原因なので抗生剤は効きません。一方、抗生剤服薬の適応となる細菌感染症はわずか5%です。つまり38度以上の発熱を伴う風邪や胃腸炎の患者さんの95%はなにもしなくても自然治癒するのです。この原理は小児科でもほぼ同じです。読者の皆様もこの科学的な真実をよく理解して不要な抗生剤の服薬を避けるべきです。抗生剤によって腸内細菌の破壊やかく乱が起こってしまうと、前回の糖尿病、今回の肥満や痩せだけでなく、もっといろいろな疾患を引き起こす確率が高くなります。

灰本クリニック 灰本 元

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