カエデ糖の歴史1
カエデ糖の歴史1
安井医院 医師 安井廣迪 記
カエデ糖(メープルシュガー)は、ムクロジ科カエデ属の落葉高木・サトウカエデ(Acer saccharum)という、高さ30~40mにもなる木の樹液から作られる砂糖の一種です。この砂糖は、世界史を動かした中南米の巨大砂糖産業と全く関係なく、カナダを主とした小さな地域で細々と生産されてきたローカルな砂糖なのです。
サトウカエデ(Acer saccharum)の木
Missouri Botanical Gardenのホームページより
http://www.missouribotanicalgarden.org/
もともと、北アメリカの極寒の地(現在のケベック州付近)に住んでいた人々が、毎年、3月中旬の数週間のみ、木に穴をあけて樹液を採取し、木をくりぬいて作った器に入れ(金属の容器がなかった)、そこに熱した石を放り込んで水分を飛ばし、最終的に固まった砂糖を取り出す、という原始的な方法で作っていたようです。おいしくてカロリーも高く、保存もきくので、彼らにとっては無くてはならないものだったでしょう。
17世紀になって、ヨーロッパから毛皮を求めてファー・トレーダーたちがやってきて、やがて移民が東海岸に住み着きました。ファー・トレーダーや移民たちは先住民と接触し、その中で、サトウカエデから砂糖を作る方法を学んだと言われています。
彼らは、この木の樹液を効率的に採取する方法と、窯で煮詰めてメープルシュガーを製作する方法を考案し、水のようなサラサラの樹液を煮詰めて固形の砂糖にする過程で、メープルシロップを作り出しました。
現在では、カナダの国旗のデザインにも使われるほどよく知られているサトウカエデですが、実は、メープルシロップやメープルシュガーが作れるほどの砂糖カエデの原生林があるのは、ほんの少しの例外を除けば、ケベック州やオンタリオ州などカナダ東部の州とアメリカの一部だけなのです。アメリカでも、北東部のウィスコンシン州、ニューヨーク州、バーモント州、ウェストバージニア州では、サトウカエデは州の木とされています。
カナダの国旗
メープル農家は最終製品であるシュガーをずっと作ってきたのですが、19世紀後半から白砂糖が安く入るようになった時点で、シロップ作りへと転換しました。これは成功し、現在、世界で流通しているメープルシロップの71%はケベック州産なのです(2015の統計)。
メープルシロップは、2001年には1,560万リットルの収穫量がありましたので、現在ではもっと増えているでしょう。カナダのメープルシロップ産地では、シロップ収穫は文化の一部となっており、毎年2月の収穫の時期にはシュガー・シャック(砂糖小屋)でお祭りが催されます。ホットケーキやワッフルを食べさせるシュガー・シャックが沢山あります。また、雪の上にメープルシロップを流しかけ、へらに巻きつけたりそのまま棒状で食べたりする「メープルタフィー」と呼ばれる伝統的な食べ方が人気を呼んでいます。
というわけで、メープルシロップやメープルシュガーはカナダの特産品といっても良い存在です。(続く)