日本ローカーボ食研究会

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ローカーボ食指導法の進歩 その1 事始め

 わたしたちがローカーボ食を始めたのは2004年10月からである。その当時は確固たる根拠も希薄で、世界中を見渡しても患者さんへの指導方法も見あたらず、まさに五里霧中、手探り状態で指導が始まった。

 患者さんへは「糖質を減らして脂質を増やすという新しい食事療法に短期間だけでもつきあって欲しい」、それは指導というよりひたすらお願いだった。それから15年、わたしたちは多くの臨床研究を重ね、その結果をふまえて指導法を何度も修正してきた。現在からみると糖質を減らすという基本は変わらないにせよ、その方法は格段に進歩しているので一見するとまったく別の食事療法にみえないこともない。その変遷を数回にわたって振り返ってみたい。

 2004年10月、第一例目は60才代男性のAさんで当時血糖コントロールの善し悪しを示すHbA1cが8.0%(目標は7.0%以下、できれば6.5%)に悪化していた。Aさんに一月だけでもよいのでこの食事につきあってもらえないかと頼み込んだところ、気の優しいAさんは快諾してくれた。管理栄養士はとりあえず夕食だけ糖質を含む食品を全部除去して脂を多く含むおかずをたくさん食べてもらうことように伝え、避けてほしい糖質含有量が多い食品やおかずのリストを渡す、そんな簡単な指導だった。一か月後のHbA1cは6.6%へ劇的に下がり、中性脂肪は306から109 mg/dl(正常値は150未満)へ、体重も83から82kgへ減った。そして糖尿病薬も中止となった。Aさんはわたしよりもっと驚いてローカーボ食を続けることになった。
Aさんに著しい効果が明らかとなった翌日に、二例目の40歳台の女性Bさんにも一月だけつきあってもらえないかとお願いした。Bさんは2004年10月にHbA1c8.5%の糖尿病を発症したばかりで11月からカロリー制限食を開始予定だったが、急遽、ローカーボ食へ変更した。Bさんへも夕食だけ糖質を削除して脂質摂取を増やすことだけをお願いした。一か月後、薬をまったく使っていないにもかかわらずBさんのHbA1cは6.8%まで一挙に低下したのだった。

 3例目のCさんはインスリン治療を行っており、2005年1月からローカーボ食を夕食だけ導入し、同時に低血糖を避けるために夕食前のインスリンを中止とした。一か月後に来院したときHbA1cは7.5%から6.9%に下がっていた。
これら3例のトライアルが終わったとき、わたしと管理栄養士はローカーボ食が恐ろしいほど血糖(HbA1c)を下げ、糖尿病薬を減らす効果もあることを目の当たりにした。黎明期のローカーボ食はまるでダイアの原石のようで、これを磨き上げて患者に受け入れやすい指導法を確立すれば糖尿病治療に革命が起こるとわたしと管理栄養士は確信した。

 2005年2月当時、灰本クリニックには80歳未満の糖尿病患者さんを250人抱えていたので、管理栄養士に希望者全員にローカーボ食を開始するように指示した。希望者は約半数だった。ローカーボ食の原理は、主食(米、パン、麺)を中心として糖質摂取を減らし脂質を増やすことによって不足したエネルギー(カロリー)を増やす。そのような誰も見たことも聞いたこともない斬新な食事療法だったが、当時、悪の代表格だった脂質の摂取を増やすという荒唐無稽な食事療法でもあった。にもかかわらず、患者さんたちの半数が協力してくれたことに今でもたいへん感謝している。

灰本クリニック  灰本 元
 

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