2021年、私たちのゆるやかなローカーボ食(1)
NPO日本ローカーボ食研究会 代表理事 灰本 元
ローカーボ食(糖質制限食)は世の中に一巡し急速に一般化しました。私たちがこの食事療法を始めた2004年頃にこの食事療法の正しい知識を持った医療関係者はごくわずかだったので、完全に糖質を削除する厳しい糖質制限食を吹聴する医師やそれを盲信した患者も多く、それによってうつ状態、カヘキシー、月経停止などの健康被害に陥った患者も数多く来院していました。
2010年前後から厳しい糖質制限を長期に行うと異常体重減少、癌死、心筋梗塞死などが増えることが世界的に明らかとなり、私たちも厳しく制限しないように啓蒙活動を行った結果、昨今、そのような患者を見なくなりました。啓蒙が奏功したこともありますが、実際に厳しい制限をした人たちに健康被害を自覚して継続できなかったというのが現実のように思います。
生命の進化の歴史をエネルギー源という視点から見ると、常に糖質代謝を中心にして回っており、糖質は生命にとって唯一無二の存在です。糖質が肥満や糖尿病などの生活習慣病を発症する主な原因となっているのは事実ですが、現代社会が電化製品や自動車などによって極端に運動量が減っているという背景なしにはそれは起こりえません。糖質を大量にとっても70年以上前にタイムスリップすると生活習慣病は発症しないでしょう。国民栄養調査の三大栄養素の摂取量の推移によると、私が生まれた1955年頃には糖質摂取量一日410gも摂っていましたが、最近で280gまで低下しています。しかし、その間、糖尿病の発症は数十倍にふえています。脂質摂取量は高度成長期の1975年をピークにしてそれから変化していません。糖質摂取量は2/3に減ったにもかかわらず糖尿病が増えたのは、糖質減少分に以上に運動量が激減したことが原因です。私が生まれた頃、母は朝から薪を割って七輪で火をおこし、井戸から水をくみ上げて朝ご飯を作っていました。もちろん車も洗濯機も掃除機もない時代です。当時と比べると運動量は1/5以下になっていると高齢の患者さんたちは言っています。
一方、日本の一般住民と糖質量と総死亡の関係をみた研究は三つあります(NIPPONDARA,JPHC,JACC)。日本ではアメリカほど糖質制限食が流布していないので、厳しい制限を実行している日本人はほとんどいないという背景を前提にして、日本人の一般住民の平均的糖質摂取量を男で300g、女で260g前後とすると、もっとも死亡リスクが少なかったのはそれより60gほど少ない人たちでした。これはごはん一食分(55g)に相当します。そのような食事とは朝昼食は今まで通りとして、夕食のおかずから糖質を抜いてご飯を2/3減らした程度の糖質摂取量に相当します。かなりゆるやかな糖質制限食となります。
一方、体重減少や糖尿病治療を目的とする場合には、もう少し糖質制限をしっかり行う必要があるのですが、その場合でも最も死亡リスクが少ない200g~240g/日というポイントは常に念頭におくべ気です。
糖尿病や肥満をゆるやかな糖質制限食で治療するとき、安全で効果的な糖質制限食とはどのようなものか、2021年の時点でまとめておきたいものです。次回から私たちの最近の研究成果を中心に解説します。