悪玉コレステロール神話が崩れる 第2回 -心筋梗塞予防から見たLDLコレステロール-
第1回でLDLコレステロールが高くても総死亡は増えないという話をしました。とは言っても日本人でもLDLコレステロールが高いと心筋梗塞の“発症”が増えるのは間違いありません。
2007年の岡村(慶応大学医学部教授)らは日本人1万人を約18年間追跡し、男性では総コレステロール240 mg/dl以上、女性では260 mg/dl以上で有意に心筋梗塞が増えることを報告しました。LDLコレステロールに換算すると男性では160 mg/dl以上、女性では180 mg/dl以上になります。もう一つ、福岡県の久山町研究の糖尿病患者の解析ではLDLコレステロール120 mg/dl以上で有意に心筋梗塞の発症が増えたため、120 mg/dl未満という管理目標値となっています。
これらの論文が日本人のスタチン服薬の根拠ですが、10年以上前に発表されており、人数も多くはなく、観察研究なので信頼性も高いとは言えません。それに、その頃と現在とでは強力な薬やそのジェネリックの登場、カテーテル治療によるステント植え込みなど心筋梗塞を取り巻く状況が大きく変わってきています。
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図2
日本人は欧米人と比較すると心筋梗塞死の少ない民族です。下のカラーの図のように2000年代は100人が死亡するとアメリカ人は30人、日本人は8人が心筋梗塞が原因でした。つまり、日本人では癌死(30人)や脳卒中死(13人)の方が圧倒的に多かったのです。しかし、2010年代後半にはアメリカ人ですら100人中10人、日本人では4人にまで著しく減少しました。心筋梗塞死が減少した理由は喫煙率の低下や心臓カテーテル治療の進歩が挙げられます。一方、日本人の総コレステロール値は年々増加し、欧米と同程度になっています。日本人ではLDLコレステロールが高くなっても心筋梗塞死は増えない人種なのです。古い時代のデータを元にLDLコレステロールの管理目標値を設定するのは時代遅れで、見直す時期に来ています。
心筋梗塞が発症すると、救急搬送→緊急カテーテル手術→集中治療室入院になります。数日間の入院で医療費は3割負担で60万円ほどかかります。コレステロールを下げる強力なスタチンという薬はジェネリックが発売されており、1錠3割負担で4~10円です。10年飲んでも1.4~3.6万円ほどの負担で、禁煙と併用するとほぼ発症を抑えることができます。心筋梗塞を予防するなら、スタチンを服薬した方が確実で安上がりです。(文責:灰本耕基)
図3