日本ローカーボ食研究会

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35.英国における菜食主義者と非菜食主義者の死亡率

英国における菜食主義者と非菜食主義者の死亡率
Mortality in vegetarians and comparable nonvegetarians in the United Kingdom
Paul N Appleby et al., Am J Clin Nutr. December 9, 2015 as doi:
10.3945/ajcn.115.119461.

背景:菜食主義者やその他の肉を食べない人々は、肉を食べる人々と比較していくつかの慢性疾患の発症率が低いと言われているが、より低い死亡危険度につながるかどうかは不明である。

目的:この研究の目的は英国の大規模コホート研究における菜食主義者やそれに対する非菜食主義者の死亡危険度を記載することである。

試験デザイン:この研究は英国在住の60,310名を含む2つの前向きコホート研究からのデータのプール解析を含んでおり、その60,310名は18,431名の習慣的に肉を食べる人(平均で週5回以上)、13,039名の時々肉を食べる人(平均で週5回未満)、8,516名の魚を食べる人(肉ではなく魚)、そして20,324名の菜食主義者(いかなる動物の肉も決して食べない完全菜食主義者2,228名を含む)で構成されていた。18の一般的な死因別にそれぞれの食習慣の群ごとの死亡危険度をCoxハザードモデルを用いて推定した。

結果:追跡期間の100万人年において90歳未満で5,294名が死亡した。それぞれの食習慣の群間において死亡危険度に有意差はなく、ハザード比はそれぞれ習慣的に肉を食べる群と比較して時々肉を食べる群で0.93(95% CI:0.86-1.00)、魚を食べる群で0.96(95% CI:0.86-1.06)、菜食主義者の群で1.02(95% CI:0.94-1.10)であった。また、習慣的に肉を食べる群と比較して死亡危険度に有意差のあったものは疾患別に以下の通りであり、魚を食べる群で循環器系疾患はより高く(HR: 1.22; 95%CI: 1.02-1.46)、魚を食べる群で悪性腫瘍はより低かった(HR: 0.82; 95%CI: 0.70-0.97)。悪性腫瘍のうち膵臓がんは時々肉を食べる群(HR: 0.55; 95%CI: 0.36-0.86)と菜食主義者(HR: 0.48; 95%CI: 0.28-0.82)でより低く、リンパ組織や造血組織の悪性腫瘍は菜食主義者でより低かった(HR: 0.50; 95%CI: 0.53-0.92)。また、呼吸器疾患では時々肉を食べる群でより低く(HR: 0.70; 95%CI: 0.53-0.92)、その他の死亡では時々肉を食べる群でより低い結果となった(HR: 0.74; 95%CI: 0.56-0.99)。BMIで補正した後もこの関連性は概ね変化は見られなかった。

結論:英国国民を対象とした菜食主義者とそれに対する非菜食主義者では同程度の死亡危険度であった。特定の死因に見られる死亡危険度の違いについて更に研究する価値がある。

読後感想:この研究における解析の結果は私がこれまで菜食主義に対して抱いていたイメージを大きく覆すものとなった。菜食主義者となる動機は宗教や思想、健康など各々異なるのであろうが、少なくとも健康志向で菜食主義を実施する人々はこの研究の結果を知っておくべきではないだろうか。日本人では脂質摂取と死亡危険度の研究からもっと脂質を食べた方が、同様にもっと赤肉を食べた方が死亡危険度が下がるという結果が大規模コホートから明らかになっている。野菜は○で脂肪と肉は×という単純な発想では食と病気や健康の本質に迫れないことが分かってきた。(医師 灰本 元,薬剤師 北澤 雄一)

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