日本ローカーボ食研究会

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68.コホートにおける中年期での血管障害リスク因子の暴露と25年後の認知症発症との関連

コホートにおける中年期での血管障害リスク因子の暴露と25年後の認知症発症との関連
Associations Between Midlife Vascular Risk Factors and 25-Year Incident Dementia in the Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) Cohort
Rebecca F. Gottesman et al. JAMA Neurol. doi:10.1001/jamaneurol.2017.1658
Published online August 7, 2017.

重要性:血管障害に対するリスク因子は認知機能の低下と関連があるとされている。中年期での数々のリスク因子の暴露は晩年の認知機能障害のリスクを協議する上で最も重要となるかも知れない。

目的:中年期のARICコホート参加者を調査し、中年期での血管障害リスク因子の暴露と25年後の認知症発症との関連を考察する。

デザイン、設定、参加者:前向きコホート研究であるARICは1987~1989年と2011年~2013年の2サイクルで行われた。データ解析は2015年4月~2016年8月の期間で行われた。コホートの設定は米国の4つの地域(メリーランド州ワシントン郡、ノースカロライナ州フォーサイス群、ミシシッピ州ジャクソン、ミネソタ州ミネアポリス郊外)のARICの対象とする多施設であった。この研究には試験開始時の年齢が44~66歳の参加者15744人(27.1%が黒人、72.9%が白人)が含まれた。

主要結果、測定:試験開始時にAPOE ε4遺伝子型の存在と同様に、人口統計学的リスク因子と血管障害リスク因子(肥満、喫煙、糖尿病、前高血圧症、高血圧症、脂質異常症)が調査された。試験参加者は初回の検診後、更に追加の4回を含め合計5回の検診、入院による管理、電話での調査を受け、繰り返し認知機能を評価された。最も近い時期では、試験参加者は2011~2013年のARIC Neurocognitive Study(ARIC-NCS)の期間中に認知症の診断のために一揃いの詳細な認知神経科学試験、情報提供者による問診、診断の再審査を受けた。更なる認知症の症例はARIC-NCSの調査に来訪しなかった試験参加者に対してTelephone Interview for Cognitive Status(TICS)の修正版や情報提供者の問診を通して、あるいは入院中の診療記録の国際疾病分類第9版(ICD-9)を用いて確認した。試験開始時の血管障害リスク因子、人口統計学的リスク因子と認知症との関連を評価するために十分に調整を行った上でCox比例ハザードモデルを用いた。

結果:15744人の試験参加者から全体で1516例の認知症(第1サイクルでの平均年齢は57.4±5.2歳、57%が女性、34.9%が黒人)が確認された。認知症の増加に対するハザード比(HR; [95%CI])は中年期の喫煙1.41; [1.23-1.61]、糖尿病1.77; [1.53-2.04]、前高血圧症1.31; [1.14-1.51]、高血圧症1.39; [1.22-1.59]であったのと同様に、黒人で1.36; [1.21-1.54]、高齢(60~66歳)で8.06; [6.69-9.72]、低学歴(高卒未満)で1.61; [1.28-2.03]、APOE ε4遺伝子型で1.98; [1.78-2.21]であった。糖尿病の認知症に対するハザード比はAPOE ε4遺伝子型とほぼ同程度であった。

結論、関連性:黒人および白人のARICコホートの試験参加者において中年期の血管障害リスク因子の暴露は認知症リスクの上昇と関連している。中年期における数々のリスク因子の暴露によって引き起こされる認知機能障害のメカニズムや予防する機会を評価するために更なる研究が必要とされる。

読後感想:今回の抄読会では血管リスクと認知症の関連を追跡した論文を読みました。この論文を選んだ理由は25年にも渡って長期に追跡していたためです。 内容を要略すると患者さんは1987年から登録され、2011年までの間に5回の調査が行われました。登録症例数は15744人と多数の患者さんを追跡しており、 血管リスクと認知症の発症リスク関連は、中高年の喫煙のハザード比が1.41、糖尿病のハザード比1.77、前期高血圧のハザード比は1.31、高血圧は1.39でした。
 特に糖尿病の発症リスクは、APOE4遺伝子有りのハザード比1.98と同等のリスクを持っておりました。
 糖尿病は後の血管リスクの予防のみならず、認知症リスクにもなることは日本の久山町研究から広く知られています。この研究では久山町研究より規模が大きく何度も認知機能検査を行っており、そして今まで指摘されていた危険因子の再確認とAPOE ε4遺伝子型が追加されたことが新知見です。問題は糖尿病の高血糖と血糖コントロールが悪い場合に必ず使用するDM薬による低血糖発作のどちらが認知症発症により強く関連しているかは、なかなか謎が解けない課題です。低血糖はいつ発症しているかなかなか捕らえられないのでなかなか難しい問題ですが、過去の介入研究や観察研究を詳細に検討して、近い将来、その問いに応えてくれる論文が発表されることを期待しています。(木原 丈晴、灰本 元)

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