45.PPIと慢性腎疾患の発症および末期腎不全への進行リスク
臨床疫学
PPIと慢性腎疾患の発症および末期腎不全への進行リスク
Yan Xie et al.
J Am Soc Nephrol 2016 Apr 14 ASN.2015121377
PPI(プロトンポンプ阻害剤)服用と急性間質性腎炎発症のリスクの間に関係があることが知られている。しかし、PPIの服用がCKD(習慣性腎症)の発症、その進行、さらにはESRD(末期腎不全)に至ることと関係するかどうかは知られていない。私たちは退役軍人省の国のデータベースを用いて新規PPI服用者(n=173,321人)と新規H2ブロッカー服用者(n=20,270)について主要なコホート研究を構築し、腎症発症との関係を確かめるためにこれらの患者について5年以上にわたる追跡調査をした。調節コックス生存モデルによりPPI群をH2ブロッカー群と比較すると、eGFR(推算糸球体濾過量)<60(mL/min/1.73m2)を判定するリスクとCKDを発症判定するリスクが増えた(それぞれHRは1.22 [95%CI、1.18-1.26]と1.28 [95%CI、1.23-1.34])。PPI服用患者でリスクが有意に高くなったのは、血清クレアチニン値が2倍になり(HR、1.53 [95%CI、1.28-1.37])、eGFRが30%以上減り(HR、1.32 [95%CI、1.28-1.37])末期腎不全になる(HR、1.96 [95%CI、1.21-3.18])の場合であった。更に我々は、PPIの服用期間が30日以下と31~90日、91~180日、181~360日および361~720日とを比べてPPIの継続服用と腎症発症リスクの間に段階的にリスクが増加する関係があること発見した。H2ブロッカーを服用する患者対PPI服用患者、PPI服用患者に対する対照群で1:1と同じ傾向スコアのコホート患者群について腎症発症のリスクを調査したところ、いずれもPPI服用者でリスクが増加するという結果であった。我々の結果はPPIの服用により患者がCKDの発症診断、その進行、末期腎不全に至るというリスクが増大することを示唆した。
読後感想:PPIに関しては、継続使用が患者の不利になるというデータが最近いろいろと出るようになった。PPIによる肺炎リスクの上昇を以前にジャーナルクラブで取り上げたが、今回は腎機能障害が起こるというデータが出てきた。困ったことに、現在なお漫然とPPIが使用されているケースを多く見受けられる。効果がしっかりある薬なので本当に必要な患者さんにはよいが、胃の副作用防止予防投薬の使用など、強い薬を服用する事のリスクを把握して治療に生かしてもらえると、その先の余分な医療費も節約できるだろう。(薬剤師 松岡武徳)