14.肥満および腹部肥満のレベルを通じて見たヨーロッパ人男女の身体活動と総死亡の関係
運動不足を解消すると・・??
肥満および腹部肥満のレベルを通じて見たヨーロッパ人男女の身体活動と総死亡の関係:欧州におけるがんと栄養に関する前向き研究(EPIC)
Physical activity and all-cause mortality across levels of overall and abdominal adiposity in European men and women: the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition Study (EPIC)
Ekelund, U et al. Am J Clin Nutr doi: 10.3945/ajcn.114.100065.
背景:強度の肥満に起因する高い死亡危険度は身体活動(PA)により減少するかもしれない。しかしながら、運動不足を解消することで減少する理論的な死亡数は、肥満そのもの及び腹部肥満の解消による減少数と比較すると不明瞭なままである。
目的:我々は肥満と腹部肥満が身体活動(PA)と総死亡の関係を変えるかどうかを調査し、人口寄与危険度(PAF)と身体活動による延命期間を推定した。
方法:このコホート研究は334,161人のヨーロッパの男女を対象とした。平均追跡期間は12.4年であり、4,154,915人・年に対応した。身長、体重、腰周り(WC)は診療所で測定した。身体活動(PA)は検定済みの測定器による自己測定値を評価した。死亡率とPA、BMI、WCとの間の複合関係は、各調査センターと年齢によって層別化し、性別、教育、喫煙、アルコール摂取を調整したCox比例ハザードモデルを用いて解析した。不活発さ(運動不足)、肥満指数(BMI、kg/m2)(>30)およびWC(男性で≧102cm、女性で≧88cm)と関連するPAFのセンター固有値を計算、無作為効果メタ解析に組み込んだ。身体活動(PA)による平均余命の増加を推定するために、生命表の分析を行った。
結果:有意な相互作用(PA×BMI、PA×WC)が観察されたため、ハザード比(HRs)はBMIとWC群で層別に推定した。総死亡の危険性は、BMIとWCの異なる層群で運動不足に分類される人と比較すると適度に運動する人では16-30%減少した。すべての運動不足を解消すれば理論的には総死亡は7.35%(95%CI:5.88%、8.83%)減少する。肥満(BMI>30)を解消した場合の対応する推定値は3.66%(95%CI:2.30%、5.01%)の減少であった。大きい腰周り(WC)の解消は運動不足解消の場合と似ていた。
結論:死亡危険度の最大の減少は、肥満および腹部肥満を通じ二つの運動不足の群で観察された。それは運動不足の人に対して少しでもいいから運動するように励ます努力が公衆衛生上有益であることを示唆している。
読後感想
肥満は栄養摂取過多と運動不足が主な原因で起こる。現代社会においてはその傾向が増加しつつあり肥満は様々な病気につながる因子であることはよく知られている。肥満を解消すべきか運動不足を解消すべきか?はある意味多くの人が知りたいテーマなのだと思う。この論文では肥満の解消も重要ではあるが、運動不足を解消するという視点がより重要であることを示すデータが得られた。
適度な運動(1日20分程度のウォーキングに相当する中程度の運動)をすることで総死亡を減らせる。しかも肥満解消よりも効果的であると言われれば、今日から一駅分歩いて帰ろう!と思えるだろう。日本人での大規模研究(JPHC研究、JACC研究)でも痩せれば痩せるほど(BMI<20)死亡危険度は高くなり、BMI20~30までは差がないという結果が出ている。このことからも無理なダイエットをするのではなく健康的な運動をすることが重要であることが見えてくる。(薬剤師 加藤仁)