10.NHLBIの大規模臨床介入研究で無効という結果が増えている可能性
無作為化介入研究の裏:第2弾 事前登録制度以前と以後では有効率が1/10に激減!
NHLBIの大規模臨床介入研究で無効という結果が増えている可能性
Likelihood of Null Effects of Large NHLBI Clinical Trials Has Increased over Time
Robert M. Kaplan, Veronica L. Irvin PLoS ONE (2015) 10(8): e0132382
はじめに:われわれはNHLBI(アメリカNIHに属する心臓肺血液疾患研究所)が支援した無作為化臨床介入研究で無効の結果の論文数がある時期をこえて増えているかどうかを調べた。
方法:われわれはNHLBIが支援した1970年~2012年までの大規模臨床介入試験のうち、心血管障害の治療及び予防をするための薬剤または食事サプリメントを評価したすべての試験を調査した。直接的な費用が年間50万ドル以上,被検者は大人,主要アウトカムは心血管系疾患とその発症リスク及び死亡であることを組み込み条件とした。これらの条件に合致した55の臨床介入試験の公表が2000年以前か以後か、実薬または偽薬対照試験をして公表する前にclinicaltrials.govに登録したか、試験がスポンサー企業との共同研究であるか否か、について分類した。われわれは、それらの試験が主要なアウトカムの因子と総死亡に対して有効,有害,無効のうちどれを報告したかについて一覧表にまとめた。
結果: 2000年以前に公表された30試験のうち17試験(57%)が主要なアウトカムに対して有意に有効と報告したが、それに比較して2000年以降は25治験のうちわずか2試験(8%)しか有効でなかった(χ2=12.2, df=1, P=0.0005)。偽薬対実薬の比較試験を行った割合には変わりがなかった。スポンサー企業の有無と有効性判断とは関係していなかった。臨床介入試験の事前登録と、試験結果が無効判断へ傾く傾向とが強く関係していた。
結論:有効性を報告するNHLBIの臨床介入試験の数は2000年以降減少した。無作為化比較試験にもとづくアウトカムの予想と、clinicaltrials.govが要求する透明性の高い公表基準の採用が、無効判定をする試験結果が増える傾向に寄与したようである。
読後感想
RTCの結果はその評価基準が高くなり,ガイドラインの根幹を成すがゆえに裏には研究者という人間の恣意的要因がうごめいています。前回は製薬会社の要因の論文を紹介しましたが,今回はRTCの事前登録制度がアメリカで始まった2000年以前と以降に発表された論文の結果は,評価したい薬,食品などによる治療群を偽薬あるいは治療しなかったコントロール群と比較して有効という結果が,57%から8%に激減しています。事前登録した内容や枠から外れたRTC論文を投稿できないこと,たとえ無効でも結果を発表せざるを得ないこと,つまり研究者の好都合な論文だけを投稿するということが許されなくなったからだと思います。そのような公正な条件で,新薬や食品は無効な場合が多くなるのです。