202.腎機能別のメトホルミンと乳酸アシドーシス発症リスクとの関連性:地域住民コホート研究
Association of Metformin Use With Risk of Lactic Acidosis Across the Range of Kidney Function
A Community-Based Cohort Study
Benjamin Lazarus, et al. JAMA Inter Med. 2018; 178(7): 903-910. doi:10.1001/jamainternmed.2018.0292
【重要点】
米国における約100万人の軽度から中等度の腎臓病を合併した2型糖尿病患者は、ガイドラインが導くメトホルミン療法を受けていない。この事実は、CKD患者における乳酸アシドーシスの発症リスクに対する不確定性を反映しているのかも知れない。
【目的】
この研究の目的は、eGFRの経時的変化を考慮したeGFRの全区域にわたるメトホルミンの服用と乳酸アシドーシスによる入院との関連性を示すことである。
【デザイン、設定、参加者】
Geisinger Health Systemに加入している75413人の糖尿病患者の地域住民コホート研究であり、2004年1月から2017年1月まで経時的に評価した。2010年から2015年での67578人のメトホルミン新規服用患者および14439人のSU薬新規服用患者において実薬対照試験の結果は反復され、その情報源は350の米国民間医療保険であった。
【暴露】
メトホルミンの服用
【主要評価項目、方法】
乳酸アシドーシスでの入院
【結果】
最初のコホートにおける研究対象患者は75413人で、平均年齢は60.4±15.5歳、対象患者の51%(38480人)は女性であった。追跡期間の中央値は5.7年(四分位範囲:2.5-9.9年)で、その期間に2335件の乳酸アシドーシスによる入院があった。別の糖尿病治療と比較して、経時的なメトホルミン療法は全体的に乳酸アシドーシスの発症と関連がなく、eGFRが45-59ml/min/1.73m2(調整HR, 1.09; 95%CI, 0.83-1.44)の患者、およびeGFRが30-44ml/min/1.73m2(調整HR, 1.09; 95%CI, 0.83-1.44)の患者においても関連がなかった。その一方で、eGFRが30ml/min/1.73m2(調整HR, 2.07; 95%CI, 1.33-3.22)未満では、メトホルミンの服用と乳酸アシドーシスの発症リスクの増加と関連があった。新規メトホルミン服用患者と新規SU薬服用患者との比較した場合(調整HR, 0.77; 95%CI, 0.29-2.05)、propensity scoreを用いたコホート研究(調整HR, 0.71; 95%CI, 0.45-1.12)、ベースライン時のインスリン使用患者を除外した場合(調整HR, 1.16; 95%CI, 0.87-1.57)、反復したコホート研究(調整HR, 0.86; 95%CI, 0.37-2.01)において結果は一貫して同様であった。
【結論、関連性】
二つの実際の臨床を設定とした研究において、メトホルミンの服用が乳酸アシドーシスと関連するのは患者のeGFRが30ml/min/1.73m2未満であるときのみであった。この研究結果は、eGFRが少なくとも30ml/min/1.73m2の糖尿病患者におけるメトホルミンの慎重投与を支持する。
【読後感想】
メトホルミンの副作用である乳酸アシドーシスは、発症頻度は多くないものの、重篤な場合は死亡する可能性もあるため注意を要する。禁忌項目は多岐にわたり、メトホルミンの適正使用のために我々薬剤師も服用患者の状態を常にチェックしなければならない。CKD患者では、腎機能の悪化に伴いメトホルミンの排泄が減少し、血中濃度の上昇を来すため乳酸アシドーシスの発症リスクが高くなる。そのためCKD患者へのメトホルミンの投与は、患者に腎機能に応じて慎重に行う必要があるが、これまで明確な基準が存在しなかったため実際の臨床では必要以上にその投薬が制限されている。しかし、メトホルミンは糖尿病の薬物治療において今や世界的に第一選択薬とされる薬剤であり、また発癌を抑制する効果も有するため、不必要な処方制限は逆に患者にとっては不利益が生じることにもなりかねない。このコホート研究の結果は、メトホルミン服用患者を管理する医師や薬剤師だけでなく、メトホルミンを服用する患者にとっても心強い味方となるだろう。
(薬剤師 北澤雄一)