日本ローカーボ食研究会

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57.2型糖尿病とアルツハイマー病を結ぶ共通因子としての組織の炎症、インスリン信号の不完全な伝達およびミトコンドリアの機能障害

2型糖尿病とアルツハイマー病を結ぶ共通因子としての組織の炎症、インスリン信号の不完全な伝達およびミトコンドリアの機能障害
Inflammation, Defective Insulin Signaling, and Mitochondrial Dysfunction as Common Molecular Denominators Connecting Type 2 Diabetes to Alzheimer Disease
De Felice, FG, Ferreira, ST
Diabetes (2014) 63: 2262–2272 | DOI: 10.2337/db13-1954 (A review)

要旨:数多くの証拠はアルツハイマー病(AD)と2型糖尿病(DM2)との間に興味深い臨床/疫学的関係があることを示している。DM2患者がADを発症する危険はかなり高く、その逆もまた同様である。最近の研究でADと代謝性障害(特に肥満とDM2)とがその発症機構を共有することが明らかになってきている。DM2と肥満患者における肝臓や脂肪組織など抹梢組織の軽度慢性炎症がインシュリン抵抗性を誘起する鍵となるメカニズムで、それによって次第に組織機能の劣化と全身的な健康障害が引き起こされる。さらに、脳においても炎症を誘発する信号がニューロンにおけるインスリン信号の伝達障害、シナプス機能の不全さらには記憶喪失をもたらすことが見出された。この論説では、組織の炎症、インシュリン抵抗性とミトコンドリアの機能障害がADとDM2に共通した特徴であるとする証拠を再吟味し、認知障害とその根底にあるニューロンの機能障害は、末梢性組織の炎症によって悪化するか引き起こされるという仮説を提案する。脳及び末梢組織の炎症をADで脳機能の不全が起こる潜在的原因として認識することにより、この難病の治療法開発につながるであろう。

読後感想:薬物療法と疫学的大規模解析の進展により、糖尿病の主たる合併症はガン及び認知症発症リスクの増大であるといわれるようになってから久しい。ただそのメカニズムについての理解は未だ進んでおらず、議論の多いところである。
 ガンについては、糖尿病薬で糖新生を抑制することによりインスリン抵抗性を改善するメトフォルミンがガン発症の予防に効果的であるとする報告が少なくない。培養系における実験ではあるが、メトフォルミンが肝細胞のミトコンドリアに作用して結果的に糖新生を阻害すること、組織細胞の形質転換及びガン幹細胞の成長に関係する炎症反応を抑制することなどが既に報告されている。
 この稿は、脳の糖尿病ともいわれるアルツハイマー病では、脳においてインスリン抵抗性と炎症反応が現れインスリン信号伝達の損壊によるミトコンドリアの機能障害が起こるなど、分子レベルの特徴が2型糖尿病と共通することを論じ、糖尿病がもたらす抹梢組織の慢性的で軽度のinflammation(炎症)がアルツハイマー病の脳に於ける機能障害を悪化させる潜在的原因であるとする仮説を提示した。ラットのモデルAD系ではあるが、緩やかなケトン生成を伴うdietがADの病状を緩和するとの報告もある。糖尿病の治療に際し、薬剤の選択、栄養摂取の日常的調節管理のあり方を検討する上で興味深い報告といえよう。
 蛇足ながら、脳血管関門(Blood Brain Barrier)は輸送キャリアーを介してインスリンや薬物を選択的に透過させること、エネルギー源としてグルコースだけでなくケトン体も透過可能であるとは既に明らかにされている。(加藤 潔)

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