日本ローカーボ食研究会

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61.慢性心不全患者における癌の発症

慢性心不全患者における癌の発症:長期観察研究
Incidence of cancer in patients with chronic heart failure: a long-term follow-up study
Ann Banke et al. European Journal of Heart Failure (2016) 18, 260–266 doi:10.1002/ejhf.472

目的:慢性心不全患者の生命予後が改善されているなか、その合併症の臨床的な重要性は増大している。この研究の目的はデンマークの心不全患者を対象とした大規模コホート研究において癌の発症と危険度、総死亡を評価することである。

方法、結果:この研究は癌の既往歴のない全体で9307人の心不全患者を対象に行った。(全体の27%が女性、平均年齢が68歳、全体の89%が左室駆出率(LVEF)<45%)あらゆる癌の既往歴と総死亡のデータはDanish national registry登録患者より入手した。それらのアウトカムについてデンマークの一般地域住民と比較した。また癌全体と臓器別の癌の発症リスクはポアソン回帰モデルとCox比例ハザードモデルを用いて解析した。新たに診断された癌について、心不全患者を対象としたコホート研究における975件と一般地域住民における330843件の発症率はそれぞれ10000人年で188.9[95%CI: 177.2-200.6]と63.0[95%CI: 63.0-63.4]であった。また年齢によって層別化すると、すべての心不全患者の群において癌の発症率が増加した。更に全臓器の癌の発症危険度が増加し、その発症率比は1.24[95%CI: 1.15-1.33]であった。臓器別に解析すると、膀胱癌を除いた全ての臓器の癌に対するハザード比が増大した。総死亡は一般地域住民における癌患者と比較して癌を併発した心不全患者でより多かった。

結論:心不全患者は癌の発症危険度が高く、その傾向は心不全の診断後に数年間続く。そしてその生命予後は心不全を罹患しない患者よりも悪い。

読後感想:心不全と癌の発症に焦点を当てた論文をこれまで目にすることはなかったが、先日参加した循環器の勉強会で心不全に関する講演を拝聴したのをきっかけに知ることとなった。他にも同じような研究がないか検索してみた結果、二編の海外文献を見つけ、そのうちの一編が今回掲載した文献である。調査人数がまだ比較的少ないが、今後の治療戦略に大きく影響を及ぼすだろう。心不全は今後その患者数が増加することが予測されるうえに、癌死は欧米人に比べてもともと日本人に多いためその臨床的意義は大きい。(薬剤師 北澤雄一)

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