114.健康な高齢者における総死亡率に対するアスピリンの効果
Effect of Aspirin on All-Cause Mortality in the Healthy Elderly.
John J. McNeil et al
N Engl J Med 2018; 379:1519-1528 DOI: 10.1056/NEJMoa1803955
【背景】
現在ジャーナルに発表されているReducing Events in the Elderly trial(ASPREE)の一次解析では、アスピリンの日常的な使用は高齢者において身体的障害のない生存という主要エンドポイント対して有益性をもたらさなかったと報告している。二次エンドポイントである総死亡のより高い比率は、プラセボよりアスピリンの方で認められた。
【方法】
2010年から2014年にかけて、70歳以上(アメリカにおける黒人およびヒスパニック系では65歳以上)で、心血管疾患、認知症、身体障害の既往のないオーストラリアおよびアメリカの地域住民を登録した。参加者は無作為に腸溶性アスピリン100mg投与群とプラセボ投与群に割り付けられた。死亡は、試験の割り付けを知らない審査員によって潜在的な原因に従って分類された。アスピリン投与群とプラセボ投与群との死亡率を比較するためにハザード比を算出し、具体的な死因の事後解析を実施した。
【結果】
登録された19114人のうち、9525人がアスピリン投与群に割り付けられ、9589人がプラセボ投与群に割り付けられた。追跡期間の中央値である4.7年の間に合計1052件の死亡が発生した。総死亡リスクは、アスピリン投与群で1000人年当たり12.7件、プラセボ投与群で1000人年当たり11.1件であった。(HR 1.14; 95%CI 1.01-1.29)アスピリン投与群での死亡率が高い主な原因はがんであり、1000人年当たり1.6件の超過死亡であった。がん関連死はアスピリン投与群における参加者の3.1%、プラセボ投与群における参加者の2.3%で発生した。(HR 1.31; 95%CI 1.10-1.56)
【結論】
より高い総死亡率は、プラセボを服用する高齢者よりアスピリンを日常的に服用する明らかに健康な高齢者で認められ、主としてがん関連死に起因していた。以前の研究の文脈ではこの結果は予期しないものであり、慎重に解釈すべきである。
【読後感想】
今までアスピリンは梗塞のリスクのある患者さんに広く予防で使われてきたが、ここ最近の大規模な試験の結果、一次予防への改善効果がないことが分かり医師によってはアスピリンの処方量が減ってきてる。ただ最近は一次予防において死亡リスクの低下がみられないだけでなく、出血リスクの増加も問題となっており、特に今回のような癌のリスクが増えるといった可能性は大問題になり得る。まだ人数や観察期間が不十分なので更なる追加のデータが必要だが同様な結果が出てくるようであれば、今まで多くの方に使われてきた薬が今後は慎重に対象患者を選ばないといけない薬に位置づけが変わりそうである。
(薬剤師 松岡武徳)