20.スタチンの多量投与治療と中程度投与治療の比較よる糖尿病発症危険度
スタチン内服で2型糖尿病の発症が少し増える!
スタチンの多量投与治療と中程度投与治療の比較よる糖尿病発症危険度 メタ解析
Risk of Incident Diabetes With Intensive-Dose Compared With Moderate-Dose Statin Therapy - A Meta-analysis David Preiss et.al.JAMA, (2011) 305: 2556-2565
背景:近年のメタ解析は、スタチン療法が糖尿病発症のリスク過剰と関係していることを明らかにした。
目的:スタチン療法を多量投与と中程度投与と比較し、糖尿病新規発症危険度の増加と関係するかどうかを調査すること。
データの情報源:該当する臨床試験をMEDLINE、EMBASE、the Cochrane Central Register of Controlled Trials (1996年1月1日から2011年3月31日まで) の各データベースから特定した。
研究対象の選定:スタチンの多量投与治療を中程度投与治療と比較して1年以上追跡した1000人を越える参加者を含む無作為化比較エンドポイント試験を今回の解析に組み込んだ。
データの抽出:試験毎に用意される表形式のデータには、糖尿病にかり大血管障害(心不全、非致死性心筋梗塞または脳卒中、冠状血管再建)を経験している参加者の基本的特徴と人数を書き加えた。糖尿病と大血管障害の新規発症について試験特有のオッズ比(ORs)を計算した、そしてこれらをランダム効果モデルを用いて結合した。各試験の間の不均一性は、I2統計を使い評価した。
結果:試験開始時に糖尿病に罹患していない32,752人についての5件のスタチン臨床試験で、加重平均4.9 (SD=1.9) 年に渉る追跡期間中に2749人が糖尿を発症(うち1,449人には多量投与スタチン療法が、1,300人には中程度投与スタチン療法が割り振られ、多量投与群では1000人-年当たり2.0件発症が多いことを示している)、6684人が心血管疾障害(それぞれ3134人と3550人で、多量投与群では1000-年あたり6.5件少ない)を経験した。中程度投与群に比べ多量投与治療を受けた参加者のオッズ比は、新規糖尿病発症につては1.12(95%信頼区間、1.04-1.22 I2=0%)、心血管障害については0.84(95%信頼区間で0.75―0.94 I2=74%)であた。中程度のスタチン治療群に比べ、多量スタチン投与治療群の新規糖尿病発症についての有害必要数(NNH:治療群で対照群より発症が増え、この人数の治療あたり1人の有害例が増える)は一年当たり498、一方心血管障害についての治療必要数(NNT:この人数の治療当たり一人の割合で治療効果が出る)は一年につき155であった。
結論:5つのスタチン試験データのプール解析では、スタチン多量服用の療法は、中程度量スタチン療法に比べ新規糖尿病発症危険度の増加と関連があった。
読後感想
現代の日本医療では、L/Hを重要視することもあり、高用量でスタチンを使用している処方箋を見ることは少なくありません。高用量のスタチン療法が、若干心血管系疾患の発症は抑えることができても、糖尿病の発症を増やしてしまうのであれば、合併症がない状態で、高脂血症の治療を低用量のスタチンで行うことは、糖尿病に対しては予防的意味を持つかもしれません。これは、HbA1c論争と同じように、高用量のスタチン療法でLDL-Cを単に下げれば良いというものではないが、低用量でLDL-Cを十分下げないリスクもあることを医療従事者として理解していることは重要だと思いました。(薬剤師 渡邉 真弓)