11. 脳心血管障害の一次予防にアスピリンは効果があるか?
低用量アスピリンは日本人の脳心血管障害の一次予防に役立たない!!
アテローム性動脈硬化症リスクを持つ60歳以上の日本人における心血管イベントの一次予防のための低用量アスピリン:無作為化試験
Low-Dose Aspirin for Primary Prevention of Cardiovascular Events in Japanese Patients 60 Years or Older With Atherosclerotic Risk Factors A Randomized Clinical Trial
Yasuo Ikeda, MD; Kazuyuki Shimada, MD; Tamio Teramoto, MD; Shinichiro Uchiyama, MD; Tsutomu Yamazaki, MD; Shinichi Oikawa, MD; Masahiro Sugawara, MD; Katsuyuki Ando, MD; Mitsuru Murata, MD; Kenji Yokoyama, MD; Naoki Ishizuka, PhD
JAMA 2014;312(23):2510-2520
重要性:アテローム動脈硬化性心血管疾患の予防は高齢化による日本での公共衛生上の優先事項である
目的:毎日の低用量アスピリンが、複数のアテローム性動脈硬化リスクを持つ高齢の日本人で心血管イベントの発生を減らすのかどうかを決定する。
デザイン、設定、参加者:Japanese Primary Prevention Project(JPPP)は多施設、オープンラベル、無作為化,平行群間の臨床介入試験であった。参加者(N=14,464人)は60~85歳の高血圧、脂質異常症あるいは糖尿病を持つ患者で,2005年3月から2007年6月まで日本の1007の診療所の開業医により募集され、最終的に2012年5月まで6.5年間追跡した。学際的な専門審査委員会(治療の割り当てを目隠し)がアウトカムを判定した。
介入:参加者は現在使用中の薬に100mg/日の腸溶性アスピリンを加えた群と非アスピリン群に無作為に1:1に分けられた。
主要結果と対策:複合主要評価項目は心血管障害死(心筋梗塞、脳梗塞、その他の心血管疾患)、非致死的脳卒中(虚血性、出血性、診断を確定できない脳血管障害を含む)そして非致死的心筋梗塞であった。副次評価項目には特有のエンドポイントを含めた
結果:この研究は,無効な結果に基づいて情報監視委員会によって追跡期間中央値5.02年後4分位範囲、4.55-5.33)に早期中止となった。アスピリン群と非アスピリン群の両方について56人の致死的なイベントが発生した。非致死的な脳卒中 はアスピリン群で計114人、非アスピリン群で108人、非致死的心筋梗塞はアスピリン群で20人、非アスピリン群で38人、正確な診断が不明の脳血管イベントはアスピリン群で3人、非アスピリン群で5人発生した。5年間の主要評価項目のイベント発生率は、アスピリン群で2.77%(95%CI、2.40%-3.20%)に対し、非アスピリン群では2.96%(2.58%-23.40%),ハザード比0.94(0.77-1.15),P=0.54と両群で有意差はなかった。アスピリンは非致死的心筋梗塞(アスピリン群で0.30に対し非アスピリン群は0.58;HR, 0.53;P=0.02)と一性脳虚血発作(アスピリン群で0.26に対し非アスピリン群は0.49,HR, 0.57 ; P=0.04)では発生率を有意に下げ,そして輸血または入院を必要とする頭部以外の出血リスクを有意に増大した(アスピリン群で0.86に対し非アスピリン群では0.51; HR, 1.85; P=0.004)。
結論と関連性:一日一回の低用量アスピリンはアテローム性動脈硬化症のリスクをもつ60歳以上の日本の患者において心血管死、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞などの複合評価項目のリスクを有意に減少しなかった。
読後感想
今まで低用量アスピリンは脳心血管系障害の一次予防に効果があると当然のように考えられてきましたが、今回の論文で日本人でも一次予防には効果が無い事が証明されました。最先端の研究が今までの常識を覆してしまうことに、ただ驚くばかりです。さらに一年ほど前から、世界の論文ではちらほら低用量アスピリンの一次予防効果への疑いの声が出始めていましたし,糖尿病患者ではアスピリンは脳心血管障害の一次予防に無効であることがほぼ確立されています。日本でもこれほど大規模なデータが出てきたのでさらに情報の信頼性が確かなものになったかと思います。(薬剤師 松岡武徳)