日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

第5回定期勉強会印象記:名古屋市千種区 開業医 内科 高田 実

「ローカーボ研究会の勉強会に参加しての印象記」

名古屋市千種区 開業医 内科 高田 実

 私が糖質制限食を知ったのは2005年でした。家内が「あなた主食を抜けば糖尿病がよくなるという本があるよ」と新聞をみて言いました。それを聞いて私は「何を莫迦なことをいってるんだ」と怒りました。糖尿病食はカロリー制限食で全カロリーの60%は糖質で摂ると教えられてきましたから。医学部の学生のとき糖尿病の食事療法を教えていただいたとき、糖質をカロリーの60%も摂ると聞いて、糖尿病は尿に糖が出る病気だから単純に考えれば糖を減らせばいいのに、かえって多くとるとは!!やはり医学は深淵で、偉い先生の考えることは常識とは反対なんだと妙に納得したのでした。(この辺はやはり僕には研究者の素質が全く無かったことの証明でもあります。)それから30年このカロリー制限食を莫迦の一つ覚えのごとく信じて患者さんに説明してきましたが、患者さんはなかなか食事療法ができなくて、薬物療法が主体となっておりました。それで女房にそんなアホなことを言っているのは誰だ?と聞くと高雄病院の江部康二先生だと言いました。江部先生は漢方薬の勉強でお話を聞いたことのある先生で私は存じ上げておりましたので、その本を読んでみました。理屈はすごく納得できました。目から鱗という感じで、私にとってはまさしく、ヘリコバクターピロリと同等のパラダイムシフトでした。2005年3月に糖尿病の新患さんに朝夕主食抜きの糖質制限食を指導しました、HbA1c9.0が6台に急激に改善しました。その後は糖質制限のやり過ぎは怖いと思い主食の米を1日300g(約480kcal)にしていただくよう説明しました。そんな感じでボチボチやっておりました。

 漢方仲間のH先生から灰本先生が糖質制限食の研究をされているという話を聞きました、またローカーボ研究会を立ち上げられたというお話を聞き、ホームページを見て勉強させていただきました。灰本先生は栄養士さんとローカーボ食の臨床研究をされ、その結果を英文論文にまとめて発表され、またローカーボに関連する論文を読み、本も作成されました。そのおかげで非常に勉強になりました。ローカーボにも色々な考え方があり、疫学研究で長期の極端なローカーボ食の危険性も教えていただきました。一度ローカーボの勉強会に参加したいと思っておりましたが、ただ今までの経験でいくとは灰本先生はご自分ができる方なので、できない私の様な人間にも色々仕事をほいほいとお与えになる傾向があるので躊躇しておりました。今回私の名市大の先輩のT先生が研究会に出たいと言われたのでご一緒させていただくことになりました。そうしたら会終了後、案の定、灰本先生から会の感想を書いてくださいと言うメールが入りました。この感想文を書くことと相成りました。

 ローカーボ研究会では症例検討がありました。小グループに分かれて、各グループで症例につき議論し、その結果を発表しました。症例は65歳の男性で2008年6月糖尿病を発症しました。体重73.7kgBMI 24.7とやや太り気味です。夕食だけの炭水化物制限でHbA1c6.3-6.5%(JDS)と良好なコントロールでした2013年3月にHbA1c7.6%に悪化し体重も5kg減少しました。この時のCTで膵臓の高度萎縮、膵管の拡張を指摘されるも腫瘤は無いとの所見でした。その後メトグルコ1500mgに加えてジャヌビア、シュアーポストを追加するも2013年9月にはHbA1c8.2%に悪化し体重も66kgに減少しました。
最初はインスリン抵抗性がありインスリンの分泌は十分でしたが、2013年3月にはインスリンの分泌が急激に低下し、そのため体重も減少したのだと思いました。インスリンの分泌低下は膵臓の萎縮によるものと思いました。緩徐進行1型糖尿病も疑いましたがGAD抗体は陰性で否定的です。グループのM先生より悪性腫瘍は考えなければという意見を頂きました。また栄養士さんたちからは焼酎2合は多すぎる、豚、牛肉を食べて魚を食べていないなどの意見を頂きました。発表の時、私はCTで癌は否定的と考えあえて森先生のご意見に触れず、まだインスリン分泌は少ないが保たれているかと考え、2CARDにして、アルコール減量、魚の摂取、DPP4阻害薬を他剤に変更する、グリメピリドを追加する、BOTランタス追加など提案しました。結果はなんと膵癌でした、M先生のご意見どおりでした。
他のグループも癌を強く疑う意見があり、すぐにインスリン治療を導入すべきとの意見も多く、正しい判断に感銘を受けました。村元先生から解説があり放射線科医の目でみると膵腫瘍がなんとか判るそうです。また前頭断の合成CT像から膵臓から下に突出した腫瘍をみることができるそうです。糖尿病と思っていたら実は膵癌であったという話はよく耳にしますが、実際はなかなか判断が難しいのだと思い知らされて勉強になりました。

 次いで講演1ではADAの最新食事ガイドラインについてむらもとクリニックの村元 秀行先生よりお話していただきました。講演2は名古屋大学大学院 医学研究科 予防医学 篠壁 多恵先生に 脂質、赤肉摂取量と総脂肪の大規模コホート研究という話をしていただきました。アメリカでは赤肉摂取量の増加とともに心血管障害、癌が増加すると言われていますが日本人のデーターでは関係が無いそうです。欧米人比べて日本人の肉の摂取量は格段に少ないようです。これからもこのような会に参加させて頂き勉強させていただきたいと思います。

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