日本ローカーボ食研究会

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ローカーボ食指導法の進歩 その2 手探りからの出発

 「糖質を抜いて、その代わりに脂をたくさん食べれば腹も空かないし、食後の血糖値は上がらない」というのは紛れもない科学的な事実であったが、わたしたちが糖質制限食を開始した当時はカロリー全盛の時代で、糖尿病の食事療法といえばまずカロリーが高い脂質を多く含む食品を減らすという非科学的な方法が中心だった。糖尿病専門医も管理栄養士も科学的な現実を見ようとせずに、迷信的にカロリー制限食、すなわち脂質制限を信じていた。まったく先入観とは恐ろしいものである。

 そのような時代に糖尿病患者さんにどのような方法で糖質制限食の指導を行えばよいか、答えられる医師は世界中に誰もいなかった。糖質は主食の米、麺、パンに多く含まれるのでそれを全部食べない治療を長い期間患者さんに要求するのはどうみても無理があった。糖尿病治療にはHbA1cという過去2~3ヶ月の血糖コントロール状態を示す指標があって、HbA1cの6.5~7.5%は軽症、7.6~8.9%は中等症、9.0%以上で重症とおよそ考えられていた。それなら、軽症には夕食だけ糖質を抜いて、中等症なら朝食と夕食から糖質を抜いて、重症なら全部抜けばよいのでは、つまり、HbA1cの重症度に応じて糖質制限の仕方を3段階で調整するという方法をわたしは思いついた。ほとんどの患者さんは軽症~中等症だから、ゆるやかな糖質制限食で十分に効くのではないか、それなら比較的容易に受け入れてもらえる、そのように考えたのである。

 前回紹介した3人の患者さんへの試験的な糖質制限食が劇的な効果だったので、2005年2月からほとんどの糖尿病患者さんへこの新しい食事療法を説得し、承諾してくれた患者さんへはHbA1cの重症度に応じてゆるやかな糖質制限食を開始した。この方法を使っているのは当時世界的にもわたしたちのグループだけだった。この方法は単純にして明快、高齢者でも分かりやすく、たくさんの患者さんが受け入れて実行してくれた。後の臨床研究で分かったことなのだが、わたしが直感的に決めた方法にもかかわらず現実の治療効果も抜群で極めて合理的な方法だった。

 管理栄養士とわたしは患者さん指導のためのパンフレットを準備した。開始時は「初めの2枚」と称した手製パンフレットを患者さんに手渡して説明した。糖質を多く含む食品リスト、個々の患者さんごとに一日のどこで糖質を抜くか、抜いたときに脂質を多く食べるためのコツを書いた2枚だった。そのうちの一枚を以下に掲載した。その後、管理栄養士はコツコツと書き加えてパンフレットの種類は数十種類にまで増えていった。たとえば、「小腹が空いたとき」「冬は鍋で糖質制限」「油を大さじ2杯使う夕食メニュー」「健康と錯覚している不健康な食品」などなど題材は極めて多彩であった。

 指導の回数は、初診月は二回、その後は毎月一回、6ヶ月間継続するという方法を採用した。管理栄養士もわたしも以下のパンフレットに書いてある食品さえ抜けば血糖は下がるはずと確信していたが、患者さんたちの心理的反応や医学的副作用などはまったく未知だったので一抹の不安を抱えての出発だった。一方、毎月6ヶ月もの期間、一人の管理栄養士が患者さんと面談して食生活や運動の課題に徹底して取り組むという方法は、管理栄養士の指導技術や能力を次第に進化させていった。たとえば、外食時にどのようなお店を選び、食品を注文すればよいか、患者さんからそのように問われたら、管理栄養士はそれに答えるために当院周辺の外食チェーン店をくまなく回って実際に食べ、糖質量を計算し、患者さんへの指導技術を向上していったのである。

【2005年頃のパンフレット】

~糖質(炭水化物)の多い食品~
◎穀物(主食)   米(ご飯、おかゆ、もち)
                           麺類(うどん、そば、ラーメン、スパゲッティ) パン
◎芋類      さつまいも 里芋 じゃがいも
◎糖質の多い野菜 かぼちゃ とうもろこし れんこん 人参 そらまめなど
◎果物      ほとんどすべて×。(特に柿、ブドウに注意)
◎おかし     スナック菓子 洋菓子 和菓子
◎飲み物     お酒(醸造酒:ビール 日本酒 発泡酒 甘口のワイン)
                           ジュース 炭酸飲料 清涼飲料水 果物ジュース 牛乳 

これらの食品を夕食または朝夕食から除く。
*油たっぷりの肉、魚、卵はOK お酒は蒸留酒ならOK。

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