日本ローカーボ食研究会

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悪玉コレステロール神話が崩れる 第1回 -総死亡から見たLDLコレステロール-

 LDLコレステロールは悪玉コレステロールとも言われ、その値が高いと心筋梗塞が増えるのは間違いありません。しかし、外来の患者さんではLDLコレステロールが高いのにも関わらず、頚動脈エコーで血管壁にコレステロールがほとんど蓄積していない患者もたくさんいます。

経験的に喫煙も糖尿病のない女性で、このような患者が心筋梗塞を起こした記憶はありません。ガイドラインに準ずると服薬になりますが、本当に薬が必要なのか疑問に思うこともしばしばです。
 検診などのLDLコレステロールの基準値は70-140 mg/dlとされており、日本国内のガイドラインでは男女問わず160 mg/dl以上で治療介入を推奨していますが、その科学的な根拠は希薄です。一方、最近の国内外の大規模な観察研究から糖尿病や喫煙のない人のLDLコレステロールは100~180 mg/dl程度が長生きであることが分かってきました。
 図1は神奈川県伊勢原市の男性8千人、女性1万4千人を11年追跡した研究の結果です。男性ではLDLコレステロールが100 mg/dl未満、女性では120 mg/dl未満で総死亡が増え、癌死や肺炎死などがやや増えています。一方、LDLコレステロールが高くても総死亡は全く増えていません。180 mg/dl以上まで段階的に見ているのが強みですが、年齢調整を行っていない結果なので解釈には注意が必要です。


 図1

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 次に図2は茨城県の男性3万人、女性6万人を10年間追跡した研究の結果で、多変量で調整した信頼性が高いものです。男女ともにLDLコレステロールが最も低い80 mg/dl未満の人の総死亡危険度が一番高く、それ以外ではほぼ横並びであることが分かります。男性では140 mg/dl以上で心筋梗塞死がわずかに増えていますが、女性ではLDLコレステロールが140 mg/dl以上でも心筋梗塞死は増えていません。140 mg/以上が一群となっていて詳しい分類別データがないのが課題です。


  図2

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 この2つの結果から、喫煙や糖尿病のない日本人の理想的なLDLコレステロール値は、男性では100~180 mg/dl、女性では120~180 mg/dlと考えます。ただし、糖尿病ではLDL-コレステロール値が高いと心筋梗塞のリスクが非常に高いのでガイドライン通り120 mg/dl未満が目標です。喫煙者では心筋梗塞を予防できる目標値は分かっていませんが、経験的に100 mg/dl前後が妥当と感じています。
 いずれにしても現在のLDLコレステロールの70~140 mg/dlという基準値と160 mg/dl以上で薬を使うという方針では心筋梗塞は減りますが、逆に癌や肺炎などの消耗性疾患死が増える可能性もあり、日本人の総死亡という観点から見るとその方針は科学的に正しいとは言えません。むしろ100以下に下げることの危険を念頭に置くべきです(文責:灰本耕基)
 

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