日本ローカーボ食研究会

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体重とローカーボ その1

 ―糖質摂取量を減らすほど体重は減るわけではない―

1.はじめに

 ローカーボは減量のために役立つと多くの方々は思っているに違いない。確かに1970年代のアメリカに登場したアトキンスダイエットは減量を目的としてアメリカ中に広まっていった。その後、カロリー制限食とローカーボのどちらが優れているかについておびただしい数の比較研究が発表になった。その詳細は次回に解説するとして、2000年頃から糖尿病の治療に応用され始めると、減量より血糖値や脂質異常症(血液の中性脂肪や善玉コレステロール)の改善に優れていることが明らかとなってきた。実際、私たちNPO法人日本ローカーボ食研究会の医師たちはローカーボを減量よりはむしろ糖尿病や脂質異常症の治療に応用している。

 それでは、ローカーボは減量に役立つのは本当なのか、多くの人たちが一番知りたいと思う疑問である。数回にわたってこの疑問を解説したい。

2.糖質摂取量を減らせば減らすだけ体重が減るわけではない

 私たちは13年以上にわたってローカーボ食を糖尿病や肥満患者さんへ指導し続けている。灰本クリニックで管理栄養士からローカーボの指導を受けた患者数は3000人を超えている。その患者さんたちの体重、血糖値、血液のコレステロールや中性脂肪などの変化と食事日記から計算した糖質摂取量の変化を調べて解析してみると意外な結果がわかってきた。
 血糖値は1日の糖質摂取量を減らせば減らすだけ下がっていくので、糖尿病の治療方法としてローカーボ食は薬剤や運動よりも短期間に抜群の効果を発揮する。血糖をコントロールしている仕組みは、糖質摂取量、運動量、インスリン分泌(血糖を下げるホルモン)、グルカゴン分泌(低血糖のときに血糖を上げるホルモン)のわずか4つから成り立っており、人体としては比較的単純な仕組みである。このなかで一番、血糖上昇に影響しているのが糖質摂取であるため、それを制限すれば血糖値は難なく下がる。
 一方、体重については糖質摂取を減らせば減らすだけ体重が減るわけではないことがわかってきた。ローカーボに取り組んだ患者さん達の体重は半年間に確かに平均的に2~3kgくらい減る。ところが、糖質摂取量を同じ程度制限しても、ある患者さんは10kgも減るが、ある患者さんは2kgしか減らない。つまりがんばったからそれ相応に報われるわけではない。不思議なことに、もともと肥満がある場合、たとえば100kgの患者さんはゆるやかな糖質制限によってせいぜい95kgまでしか減らないが(5%の減量)、もともと肥満がない50kgの患者さんは5kgも減る(10%の減量)場合が多い。この二人を比較すると50kgの患者さんの方が減ったという印象は圧倒的に強い。つまり、ローカーボによって肥満では体重が減りにくく、痩せは減りやすいという困った結果となったのだ。

3.体重を管理する人体のシステム

 いろいろ調べてみると、肥満になるためには、糖質摂取や血糖値を下げて脂肪合成に必須のインスリンだけでなく、その他に私が知っているだけでも10種類以上のホルモン、酵素、活性物質などが関与している。たとえば、食欲を制御するホルモン、胃腸の動きと吸収、腸内細菌、脂肪合成と分解、脂肪細胞から分泌されるホルモン、運動量など人体の体重管理システムは血糖管理よりもはるかに複雑な仕組みとなっているのである。
 人体200万年の歴史には寒冷や飢饉の時代が長くあってそのたびに人類は存続の危機を経験してきた。よく考えてみると、平均発症年齢が60歳の糖尿病は人類の存続そのものには影響しない。なぜなら、糖尿病は子供を産む年齢をずっと過ぎてから発症するからである。したがって、人類は糖尿病を予防する身体能力(たとえば血糖値が上がると頭痛がする)を獲得する方向へは進化しないと言われている(リーバーマン著 人体200万年の歴史、早川書房)。一方、小児や16~35歳の生殖年齢の男女が気候変動などによって生存を脅かすほどの低体重になってしまえば、人類の生存は危うくなる。人類の誕生以来、血糖よりも体重維持の方が人類や人体にとってはずっと重要な課題となり続けたのである。

 次回はカロリー制限食vsローカーボ食の体重への効果について発表された世界中の研究成果をまとめてお話しします。

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