日本ローカーボ食研究会

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患者の心(その2:安物買いの銭失い)

患者の心(その2:安物買いの銭失い)


渡辺病院 医師 中村 了 記

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 私の尿閉事件は、いったん急場をしのいだ。
ともかく、これで尿道は通ったので、事故渋滞解消よろしく、次の排尿は問題なく出来るんじゃないだろうか?などと淡い期待を抱いて、前向きに午後の仕事をこなしていった。
はたして夕方、尿意を催してきたため、ふたたびトイレに向った。便器の前に立ったものの、膀胱はパンパンに張っていたが、無情にも血尿が1~2滴したたりおちただけで、まったく渋滞解消の気配がない。やむを得ず、二回目の切腹の準備を始めた。
人間の適応能力とは大したもので、二回目はさほどの苦労もなく、スムーズに手順を進めることができた。しかしながら一方で、これは自然に解消するような渋滞ではない、ということも思い知ることとなった。
なんとも重い気分ではあったが、意を決して、以前から受診者をよく紹介していた某泌尿器科に予約の電話をした。電話をするだけでも、なかなかの勇気が必要であったが、受付の女性の電話対応が爽やかで、受診する決意を固いものにしてくれた。

さて、仕事が終わったところで、一目散に車を飛ばして、予約した病院に向かった。1時間少々で、ようやくたどりついた。
各種問診、診察があった。名前・住所・年齢・職業・症状など、いろいろと書かされ、話を聞かれた。
“いままでに精密検査をしたことはありませんか?”と聞かれ、
“はい、していません。あ、いや、20歳代のころにエコーや尿検査はやりましたが・・・そのときは異常なかったものですから・・・”とモゴモゴと答えた。
こいつ医者なのに、こうなるまで検査ウケてないのかよ?という目つきで一瞬こちらを睨まれたような気がしたが、私の後ろめたさによる妄想だったかもしれない。
それはともかく、尿検査(結局、尿閉のために出せないのだが・・・)、腹部エコー検査などをやっていただいた。その結果、どうやら膀胱内に数cmの腫瘤がある、ということが判明した。“腫瘤”とは、癌などを含めた“塊”のことであるが、そう言われても、これまでの症状経過などから直観的に癌ではないような気がしていたために、あまり動揺はなかった。それよりも衝撃だったのは、
“そういうわけですので、膀胱鏡の予約をとりましょう”と言われたときだった。
え?膀胱鏡???尿道に内視鏡を突っ込むアレだよね・・・
生半可に知識があるだけに、聞いただけで再び脂汗がにじんだ。
しかし、この状況を打開するには、この検査や処置が必要であることは、専門外であってもよくわかっている。癌であることよりも、よほど検査の方が恐ろしい。逃げ出したかったが、しかし、やむを得ず予約をとらせていただいた。
“では、それまで尿が出るように、尿道カテーテルを留置しておきます。”
尿道カテーテルとは、例の切腹の際に使った“細いチューブ”の上等なヤツだ。もう少しチューブが太くて、チューブの先端には風船がついている。それゆえに“バルーン”というあだ名もついている代物である。チューブの先端を膀胱内に留置し、その場所で風船を膨らませれば、チューブが抜け出てくることがない。そして、尿の通り道がふさがることもないので、常に尿が出せる状態となる。しかし、そのままにしておくと、常に尿がもれっぱなしの状態になってしまうので、これは不都合である。したがって、そのチューブが外に出ている先端に、袋を付けておくのが一般的である。
おそらく、この尿道カテーテルを留置することになるだろうと思ってはいたが、さて、その状態で風呂に入れるのか?尿道カテーテルにバッグをつけっぱなし?いやあ・・・仕事上、少々格好悪いし、ジャマだし・・・とはいえ、やむを得ないか・・・
心が萎えそうになっていたとき、天の声が聞こえた。
“チューブが入っていても、お風呂に入ってもらって構いません。それから、チューブの先端には蓋を付けますから、それで、尿意が来たらトイレで蓋を取ってもらって、普通に尿を出すことができます。”
え?そうなの?専門外とはいえ、こういうことを知らないのは、なんとも恥ずかしかったが、それでも、嬉しさの方が上回った。
“で、チューブ先端につける蓋には2種類あります。1000円のものと200円のものですが、どちらにされますか?”と言われた。これまた、キョトン。
おそるおそる、
“あのぉ・・・どう違うんでしょうか?”と聞くと、
“あ、こんな感じです。”と、二種類の蓋の実物を見せてくれた。
一つは、細長い円錐の蓋で、単にチューブに差し込んで尿が漏れてくるのを止めるというだけのシンプルな形態。
もう一つは、チューブに差し込むと、その先端が、よく食堂の卓上に置かれている食塩の容器や胡椒の容器の蓋のように、ワンタッチで開閉ができるタイプのものであった。
どう見たって、後者の方が高級品で、取り扱いも簡単なように見えた。しかし、価格にあまりにも差があった。200円と1000円。さらに、尿道カテーテルは保険がきくのに、カテーテルの蓋は保険がきかないらしい。膀胱鏡の予約は一週間後。それまでの辛抱となれば、安モノでも我慢してみよう。
“では、安い方で。”と答えた。

その帰り道、これで少なくとも、今晩は膀胱がパンパンに張ることはないな、と安堵した。
帰宅後、なんだか御下に違和感があるものの、食事をしてもとくに問題なく、入浴も無難に終了。あたりまえの平穏な日常を取り返したかにみえた。ところが・・・
しばらくして、第一回目の排尿へ。教えられたとおりに蓋をはずして尿を出した。スムーズに終了。やれやれ、なんてことはないな。じゃあ、蓋をしよう・・・と、そのとき・・・
“うっ・・・”
なんとも言えない鈍い痛みが、下腹部を襲った。
どうやら、三角錐の蓋をするときに、その蓋の体積の分の空気が膀胱に逆流するため、その刺激で症状が出たようであった。激痛ではないし、一瞬のことだし、まあ一週間乗り切れるだろう・・・と軽く考えたが、排尿時は毎回この刺激に耐えねばならず、これならケチらずに1000円の蓋にしておけばよかった、と後悔したものの後の祭り。しばらくこの不快感に耐えざるをえない状況に陥った。
数日が過ぎた。何食わぬ顔で仕事もできていたし、排尿後の三角錐の蓋による御下の不快感には閉口していたが、思ったよりも平穏な日々を過ごしていた。
ところが今度は、尿道全体が痛んできた。
その翌日には、この症状がさらに悪化。これはただ事ではない。専門外ではあるが、しかし、異物にはバイ菌がつきやすい、という基本原則を知っている。どうやら、この尿道カテーテルが感染したのではないか、と思い当たった。感染すると、一般的にはその部位は痛む。主治医の先生には悪いが、自己判断でこっそり抗生物質を服用した。
そのおかげかどうか、翌日には症状は改善して、また平穏を取り戻していったのであった。

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