日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

「科学的根拠に基づいたローカーボ研究」

「科学的根拠に基づいたローカーボ研究」

ファミリーランドクリニック南大高(名古屋市緑区)
小児科 蟹江 健介

 2019年3月10日(日)、名古屋の安保ホールで開催された「日本ローカーボ食研究会第9回学術総会」に参加した。テーマは「ローカーボ食10年間と課題」。本研究会の10年間の歩みと今後の展望を知る上で絶好の機会であった。
 初めに断っておくが、本研究会は科学的根拠に基づいた発表を行う会であり、いわゆる民間療法的な講演会ではない。内科医のみならず日本の医師、強いては世界中の医師が共通認識としてまだ持ち合わせていない最新のローカーボの話であり、その内容は斬新的かつ独創性に富んでいる。今回、世界に先立つ本研究会に参加できたことは非常に幸運であった。
 研究会は代表理事、灰本医師による挨拶から始まった。糖尿病におけるローカーボの歴史、ローカーボ食の利点と欠点、理にかなった・かつ実践的な「ゆるやかなローカーボ食」誕生の経緯、 迷走する米国のローカーボ研究、現在進行形の研究「糖質力(glycemic power)」と体重・内臓脂肪・脂肪肝との関連、という具合に導入から刺激的でその先を大いに期待させる内容であった。
 まず初めにHbA1c目標値が緩和された背景についての発表であった。厳しいHbA1c値の設定は死亡率や糖尿病合併症発症率を必ずしも下げる訳でもなく、逆に低血糖を引き起こしたりと害にもなりかねないとのことであった。以前に比べHbA1cの目標値がゆるやかになっているが、患者さんのみならず医師でもまだHbA1cの観念がゆるやかになっていない人が多いのではないだろうか。
 次に、糖質を食品管理からグラム管理へ変更する重要性の話であった。糖質の食品管理は簡便な糖質管理方法で日常的に使用されている。しかし、日本人固有の食の多様性などにより、食品管理は細やかな糖質量の修正という点では難しい。1日における糖質摂取量の、個人差のバラツキの発見から誕生した「糖質のグラム管理」 による有用性についての話であった。ゆるやかな糖質制限は1日200gである。
 管理栄養士の日常の葛藤を描いた「“脂”を悪と信じている患者との格闘」も興味深かった。糖質制限に必須の脂質の増量、脂(あぶら)=悪と信じ込んでいる患者さんの意識改革の大変さ、そして医療従事者自身も経験する既成概念からの脱却に苦しむ 葛藤についての話であった。
 人工甘味料が人体に与える影響を基礎と臨床の二つ分野から発表があった。人工甘味料は甘いがカロリーオフ、糖質ゼロなので血糖は上がらないと思っていた。しかし、実際は人体の腸内細菌叢に悪影響を与え、耐糖能異常を来す。また将来の糖尿病や癌の発症に関連があるとのことであった。まさに寝耳に水である。
 糖尿病と癌の発症率は消化器内科の間では意外と知られているらしい。すべての内科医が知らない糖尿病患者における癌の発症率、内科において専門性が進んだ事により横とのつながりが疎遠になってしまったために内科医の中で情報が共有されていない可能性がある。
 最後に心臓外科医によるローカーボのお話し。なぜ心臓外科医がローカーボ?と思うかもしれない。肥満の患者さんに術前に糖質制限をすると体重が減り術野が確保しやすいという。外科医がローカーボ食を語っている事に驚きを感じた。ちなみにすべての外科医がそうではないらしい。
討論も活発に行われ、大いに盛り上がり大成功に終わった研究会ではあったが、ひとつ気にかかる事があった。
 データを基に話を展開する者と経験則によって話を進める者。スタートラインで既に同じ土俵に立っておらず、あまりにハンディが大きすぎ議論が成立していないように様に思われる場面があったと感じたのは私だけだろうか?
 常々、医学は科学的でなければいけないと思っている。そのため何故その様に考えたのか、自分なりにその根拠となるデータなどを示す必要性を強く感じた。確かに日常診療を行いながらのデータ収集、分析は簡単な事ではないと思う。しかし、生のデータが語る説得力は非常に高い。生データであれば例えその数が少なくても、自身が持つデータの持つ意味、限界を知った上で語れば,経験則で語ることに比較すればその説得力には雲泥の差である。データ収集が困難であれば、質の高い文献を呈示するだけでもよいと思われる。
 今後も日本ローカーボ食研究会が科学的根拠を以て斬新かつ独創性に富んだ情報を発信していくことを強く望む次第である。

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