日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

学術総会印象記1

学術総会参加の印象記

じん薬局 薬剤師 北澤 雄一 

 今回で第6回を迎えた日本ローカーボ食研究会の学術総会ですが、『糖尿病治療のパラダイムシフト』というテーマが掲げられた今回はいかに低血糖起こさないで治療するかということに重点を置いた議論が展開されました。これまで常識と考えられてきた適正体重(BMI)や糖尿病治療における薬物治療、HbA1cの目標値は場合によっては不利益を生む結果になることは未だに余り知られていないのが現状です。今後の糖尿病治療はどうあるべきか、また現在問題になりつつある低血糖、低体重に潜む危険性や問題点について学ぶ為に今回の学術総会に参加させていただきました。
名古屋大学大学院医学系研究科予防医学教授の若井先生の講演は普通ではなかなか聞くことができませんが、今回は第1部の特別講演でJACC研究に基づいて脂質摂取量と総死亡リスクとの関連についてお話しくださいました。女性においてはある程度しっかり脂質を摂った方が総死亡危険度が低くなるという結果は今後の食事摂取の評価基準に大きな影響を及ぼすのではないでしょうか。また講演の中でBMI=22が理想ではなく、男性も女性もある程度メタボの方が総死亡危険度が低いという肥満パラドックスを改めて認識させていただきました。
 内科医の村元先生は大規模臨床試験のメタ解析から重症低血糖の危険性について分かりやすく解説してくださいました。そしてこれからの糖尿病治療は一度の重症低血糖も起こさない範囲で行うことの重要性をお示しいただきました。複数の臨床試験のメタ解析では解釈の仕方によって見えてくるものが異なるというのは非常に興味深いと感じました。また、中村先生の低血糖と認知症のリスクについての講演はこれから超高齢化社会を迎える我が国の糖尿病治療の課題を浮き彫りにしたように思います。
 第2部の小早川先生の提示された3症例は正に中村先生が講演された大規模臨床試験の結果を裏付けるような内容だったと思います。また前田先生の症例からはHbA1c値と低血糖の狭間で葛藤される様子がその治療薬の内容の変化から見て取れます。実際の臨床の現場ではどこで折り合いをつけるのか先生方も苦労されておられるのだと感じました。栄養士の先生方の低血糖を意識した日々の栄養指導の症例も大変興味深いものでした。特に灰本クリニックの低血糖の4症例はそれぞれ異なるケースで起こる低血糖で、管理栄養士の渡邊さんがこれらを栄養指導の中でいかに聞き出すことが重要なのかを熱く語る姿が印象的でした。
 今回の学術総会では低血糖の危険性について実に多くを学ぶことができました。しかし、糖尿病治療を受ける患者がこれら全てを理解し高い意識を持つにはまだまだ長い道のりかも知れません。そのため医療を提供する医師や看護師、栄養士が共通認識のもと徹底した患者教育を繰り返し実践していくことが重要であると思います。今回の講演の内容を踏まえて今後そこに薬剤師として少しでも関わっていけるように頑張っていきたいと思います。

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