日本ローカーボ食研究会

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116.筋骨格に対するビタミンDサプリメントの効果:システマティックレビュー、メタアナリシス、試験連続解析

Effects of vitamin D supplementation on musculoskeletal health: a systematic review, meta-analysis, and trial sequential analysis
Mark J Bolland et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2018

【背景】
 骨折、転倒、骨密度に対するビタミンD(特に高用量での)の効果は不明である。この研究は骨折、転倒、骨密度に対するビタミンDサプリメントの効果を確認することを目的とした。

【方法】
 我々はこのシステマティックレビュー、メタ解析、試験連続解析において、以前発表されたメタ解析で検索された文献から得られた研究結果を用いた。そしてこれらの研究結果をアップデートするために、言語を制限することなく、検索単語として“ビタミンD”および付加的キーワードを用いて、2017年9月14日から2018年2月26日までのPubMed、Embase、Cochrane Centralを検索した。ビタミンD服用群と未治療の対照群、プラセボ服用群あるいは低用量のビタミンDサプリメント服用群とを比較した成人(18歳以上)を対象とするランダム化比較対照試験を評価した。ビタミンD服用の有無のみ異なる研究集団であれば、複数の介入(例えばカルシウムとビタミンDの同時投与)を伴った研究であっても適合とした。水酸化ビタミンD類似物を扱った研究は除外した。適合した研究には骨折全体、股関節骨折、転倒、そして腰椎、股関節、大腿骨頸部、全身、前腕で測定された骨密度といったアウトカムデータが含まれた。研究参加者の患者特性、研究デザイン、研究アウトカム、資金源、利益相反に関するデータを抽出した。共主要評価項目は骨折、股関節骨折、転倒をそれぞれ1回でも起こした患者であり、利用可能なデータの全てを用いたITT解析によって算出した相対リスクによって骨折および転倒に関するデータを比較した。第二次エンドポイントは腰椎、股関節、大腿骨頸部、全身、前腕におけるベースラインからの骨密度の%変化量とした。

【結果】
 81のランダム化比較試験(n=53537)を識別し、そのうち42が骨折、37が転倒、41が骨密度を報告したものであった。プール解析では、ビタミンDは全骨折(36試験;n=44790、RR 1.00、95%CI 0.93-1.07)、股関節骨折(20試験;n=36655、RR 1.11、95%CI 1.97-1.26)、転倒(37試験;n=34144、RR 0.97、95%CI 0.93-1.02)に対して効果がなかった。ビタミンDの高用量と低用量とを比較したランダム化比較試験における結果と800IU/日以上の高用量を用いたランダム化比較研究のサブグループ解析での結果は同様であった。プール解析では、全部位での骨密度において各グループ間での関連する臨床的な違いはなかった。(幅 -0.16%-0.76% 試験期間1-5年以上)全骨折および転倒に対するビタミンDの効果は、相対リスク15%、10%、7.5%、全骨折のみでは相対リスク5%のfutility boundary(不毛境界)の範囲内にあると推定され、ビタミンDサプリメントはこれらの用量では骨折あるいは転倒のリスクを減少させないことを示唆している。股関節骨折に対しては、相対リスクの閾値を15%とするとビタミンDの効果はfutility boundaryおよびinferior boundaryの間にあると推定され、ビタミンDサプリメントはこの用量では股関節骨折リスクを減少させないという確かなエビデンスが存在することを意味しているが、股関節骨折リスクを増加させる可能性があるかどうかは確かではない。股関節、前腕、全身における骨密度に対するビタミンDサプリメントの効果は、相対リスクの閾値を0.5%、腰椎、大腿骨頸部における骨密度に対しては1%とするとfutility boundaryの範囲内にあると推定され、このビタミンD
の用量では骨密度を改善しないという確かなエビデンスをもたらしている。

【解釈】
 この研究結果は、ビタミンDサプリメントが骨折や転倒を予防しないこと、また骨密度に対して臨床的に有意な効果を持たないことを示唆する。またビタミンDの用量が高用量と低用量で効果に差がなかった。筋骨格の健康を維持あるいは改善する目的でビタミンDサプリメントを服用することにほとんど根拠はない。この結論は臨床治療のガイドラインに反映されるべきである。

【読後感想】
 ビタミンDにはカルシウムの吸収を助けることによって強い骨を維持する効果があるため、人体にとって必要な栄養素であるとされている。厚生労働省が示す日本人の食事摂取基準(2015年度版)によるとビタミンDの食事摂取基準は成人で男女共に5.5µg/日であり国際単位(IU)に換算すると220µg/日(5µg=200IU)である。ところが、米国科学アカデミー医学研究所の食品栄養委員会(FNB)が示す推奨栄養所要量は、成人で男女共に600IU/日、71歳以上では800IU/日とされており、日本と比較してかなり高用量に設定されていることが分かる。そのためアメリカでは高齢者の多くがビタミンDサプリメントを摂取しているという。この研究結果を見る限り、骨粗鬆症や骨折の予防効果をビタミンDサプリメントのみに期待することはできない。この分野に関しては、近年ビスフォスフォネートの長期服用の逆説的な影響が示唆されたばかりである。日光暴露や食生活、身体活動などの介入が改めて見直される必要があるだろう。

(薬剤師 北澤雄一)

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