日本ローカーボ食研究会

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87.代謝症候群の危険因子集簇と高血糖と肥満により層別化された心血管疾患死

Relationship Between Metabolic Risk Factor Clustering and Cardiovascular
Mortality Stratified by High Blood Glucose and Obesity NIPPON DATA90, 1990–2000
NIPPONDATA90  KADOTA A et al., Diabetes Care 30:1533–1538, 2007

目的
 メタボリック症候群はいくつかの診断基準によって診断されている。そのなかのいくつかは耐糖能異常を、その他では肥満が診断に必要となっている。わたしたちは代謝危険因子の集簇と脳心血管障害死の関係を高い血糖値あるいは肥満によって層別化して研究した。

研究デザインと方法
 7219人の脳心血管障害の既往がない日本人男女を9.6年追跡した。わたしたちは高血圧、高血糖、高中性脂肪、低LDLコレステロールおよび肥満を代謝因子と定義した。代謝因子の集簇数に応じた脳心血管障害死の多変量調整ハザード比はコックスハザードモデルを使って計算された。

結果
 追跡中に173人が脳心血管障害で死亡した。代謝因子の数と脳心血管障害死は正の相関を示した(P=0.07)。そのハザード比は高血糖があって2つ以上のその他の代謝因子を持つ群は高血糖がなく2つ以上の代謝要因を持つ群よりも有意にハザード比が高かった(HR:3.67、CI:1.49-9.03)。しかし、そのリスクは代謝要因が2つ以上あるが高血糖がない群では中等度だった(HR:1.99、CI:0.93-4.28)。逆に代謝要因の集簇は肥満の有無に無関係に脳心血管障害死と関係があった。

Metabolic_factor_clustering_and_CVD_mortalitu_Table4.jpg

結論
 わたしたちの所見は耐糖能異常は脳心血管障害死に重要な役割を果たしていることを示唆する。いくつかの代謝要因を持っている非肥満者数はかなり多いので、その脳心血管障害死亡のリスクは高い。メタボリック症候群の診断基準から肥満がないという理由によってこのような群を除くならば、彼らのリスクを見逃すことになる。

感想
 6月2日に慶応大学医学部公衆衛生学教室の岡村先生を招いてコレステロールと心血管障害の講演を聞く機会があったので彼の論文をまとめて読むことにした。2007年の10年以上前の論文であるが、コホート研究の正確なデータによって、メタボリック症候群の診断基準を痛烈に批判している。10年経過して、メタボ検診が失敗であったことが明らかとなってきた。肥満があってもなくても、腹囲が大きくても小さくても、脳心血管障害死は同様に発症する。それが証明されたのだが、厚生労働省の委員会では医学研究者と行政がこの結果を巡って決裂となった。行政は今更、肥満や腹囲は関係ありませんでしたという失態を自ら反省ができないのである。現在の財務省における公文書書き換えと構造はよく似ている。

(医師 灰本 元)

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