日本ローカーボ食研究会

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110.日本人集団におけるアルデヒドデヒドロゲナーゼ2遺伝子型とアルコール消費量に基づく上部消化管癌の予測モデルの開発と累積リスクの推定

Development of a prediction model and estimation of cumulative risk for upper aerodigestive tract cancer on the basis of the aldehyde dehydrogenase 2 genotype and alcohol consumption in a Japanese population

European Journal of Cancer Prevention 2017, 26:38-47,DOI: 10.1097/CEJ.0000000000000222

~要約~


 アルコール消費量とアルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2)多型は上部消化管癌のリスクと関連しており、両者の遺伝子と環境相互作用が日本人で確認されている。個人化された予防戦略の開発を支援するために、我々はリスク予測モデルを開発し、ALDH2遺伝子型とアルコール消費の組み合わせによって階層化された絶対リスクを推定した。年齢適合性および性適合性の2つの症例対照研究を実施した。1つはモデル誘導のための第1段階(630例および1260対照)であり、もう1つは外部検証のための第2段階(654症例および654対照)である。導出研究からのデータに基づいて、以下の予測因子を用いて条件付ロジスティック回帰モデルをフィッティングすることによって予測モデルを作成した。年齢、性別、喫煙、飲酒およびALDH2遺伝子型が含まれる。ALDH2遺伝子型とアルコール消費の組み合わせを含むリスクモデルは、差別的精度と派生および検証研究の両方で良好な較正を提供した。C統計値はそれぞれ0.82(95%信頼区間:0.80-0.84)および0.83(95%信頼区間:0.81-0.85)であり、両方の研究の較正プロットは理想的な較正線に近いままであった。累積リスクはリスクモデルから推定されたオッズ比と年齢別罹患率および母集団サイズを組み合わせることによって得られた。ヘテロ接合性遺伝子型を有する大量飲酒者の場合、80歳での累積リスクは20%を超えていた。対照的に他の群のリスクは5%未満であった。結論として、ALDH2遺伝子型に従うアルコール消費の改変は、上部消化管癌の予防に大きな影響を及ぼすであろう。これらの知見は個人化された癌予防のための単純で実用的なモデルを表す。

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【感想】
 愛知県がんセンターの先生方による主に食道癌のリスクについての論文である。食道癌の危険因子は喫煙がよく知られているが、別の危険因子として飲酒がある。正確に言うと、リスクが高いのは飲酒して顔が赤くなる(=フラッシング)人であることが分かっている。遺伝子的にはALDH2をヘテロで持つ人たちで、日本人の40%程度とされる。また、ALDH2をホモで持つ人はお酒を飲んでも赤くならない人で日本人の約50%、ALDH2を持っていない人はお酒を飲めない人(=下戸の人)で日本人の10%程度である。この研究で分かったのは、フラッシングがあり大量飲酒(ビール換算で約1000 ml/日かつ週5日以上)している人が最も食道癌のリスクが高く、生涯リスクで約20%(5人に1人)ということであった。それ以外の人の生涯の食道癌リスクは5%未満と高くはなく、逆に考えると理論上は少しの節酒で食道癌のリスクが減らせることになる。
 医学の世界では、癌の危険因子はリスク比(例:喫煙者は食道癌のリスクが7倍など)で論ずることが多い。ただ、〇〇のリスク比が高くても発症が極めて少ない癌もあり、誤解を生むこととなっていた。その点、この生涯リスクという考え方は一般の人にも分かりやすい。フラッシングがあるにも関わらず、飲酒量が多い方は、前述の量を参考にして節酒することをお勧めする。もちろん禁煙もした方がよいが。

(文責:灰本耕基)

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