日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

糖尿病治療薬を非服用の日本人2型糖尿病患者における炭水化物およびその由来食品のHbA1c値に対する影響

The impact of carbohydrate intake and its sources on hemoglobin A1c levels in Japanese patients with type 2 diabetes not taking anti-diabetic medication
Hajime Haimoto et al. Diabetes, Metabolic Syndrome and Obesity: Targets and Therapy 2018:11 53–64
Abstract

Introduction(序論)

食事療法は2型糖尿病の一元管理に対して必須である。食事負荷試験により血糖値および血清インスリン濃度が炭水化物摂取量に大きく依存すること、食後血糖値が炭水化物摂取量と用量(g)依存関係にあることが証明されてきた。対照的に、食事のタンパク質と脂質は血糖値および血清インスリン濃度にほとんど影響を与えない。これらの研究結果に基づいて、低炭水化物食は過去10年間で発展してきた。多くの短期間の介入研究とメタ解析が、低脂肪食と比較して低炭水化物食が2型糖尿病の血糖コントロールに対して有効であること、糖尿病治療薬の減量、体重減少、血清脂質の改善をより達成することを証明してきた。しかし、一部の研究者は低炭水化物食と低脂肪食で血糖コントロールに有意差がないと主張してきたが、彼らの結果は1500kcalを超えない比較的低カロリー摂取量の条件下で2つの食事を比較した研究から得られたものである。
 我々はまた、日本人の2型糖尿病患者において緩やかな低炭水化物食が、糖尿病治療薬を減量しながら血糖コントロール、血清脂質、内臓脂肪に対してより大きな改善を達成したことを示してきた。残念ながら2型糖尿病患者に対する低炭水化物食の介入研究の大部分は欧米諸国で行われてきており、東アジア諸国ではほとんど行われてこなかった。東アジア人における炭水化物および脂質の摂取量は欧米人とは全く異なっており、前者では高炭水化物、低脂質であるのに対し、後者では低炭水化物、高脂質である。東アジア人では主要な炭水化物由来食品は米および麺である。それに対し、欧米人では主要な炭水化物由来食品はパンである。そのため欧米人での研究結果は東アジア人に適用できないかも知れない。それ故に東アジアからの独自の研究が必要とされる。
 我々が2型糖尿病患者にどんな食事(低炭水化物食あるいは低脂質食)を割り当てたとしても、ベースライン時における炭水化物およびその由来食品の総摂取量のHbA1cに対する影響を知ることは重要である。この点に関しては、東アジア人の2型糖尿病患者を含むこれまでの様々な観察研究が、炭水化物摂取量とHbA1cとの正の相関を証明することに失敗しており、それは多くの介入研究と一致しない。これはおそらく観察研究の参加者の50-100%が糖尿病治療薬(経口血糖降下薬およびインスリンとの併用、あるいはインスリン単独)を使用していること、炭水化物摂取量の指標として炭水化物のカロリー比率(%炭水化物)を用いたことが原因である。日本人の2型糖尿病患者における我々の以前の介入研究では、炭水化物摂取量(絶対量、g/日)はベースライン時のHbA1cと明確に相関したのに対し、%炭水化物では相関しなかった。しかし、この研究は患者の30%が糖尿病治療薬を服用していた、また性別で相関が異なるか判定しなかったという制限があった。
 2型糖尿病患者における炭水化物摂取量の管理に関して、観察研究と介入研究のいずれにおいてもHbA1cにより影響を及ぼす炭水化物由来食品の種類に関してほとんど報告されていない。したがって、HbA1cを効率的に下げるために炭水化物由来食品とHbA1cとの関連性を明らかにすることが重要である。
 この背景に基づいて、我々は以下の通りに観察研究をデザインした。
1) 糖尿病治療薬を全く服用していない2型糖尿病患者における炭水化物摂取量(g/日)および%炭水化物とHbA1cとの正確な関連性を解明する。
2) 性別で関連性の違いがあるかを明らかにする。
3) HbA1cにより関連する炭水化物由来食品を同定する。

Patients and methods(患者・方法)

Patients(患者)
 我々は2010年3月から2015年6月の期間に灰本クリニックを受診した糖尿病患者で、HbA1cが6.5%以上の全ての日本人外来患者を採用した。新たに糖尿病と診断された患者と以前から既に診断を受けている患者の両方を登録した。登録した全ての患者が米国糖尿病学会(American Diabetes Association : ADA)の2型糖尿病の診断基準を満たした。全ての患者において空腹時血糖およびHbA1cを測定し、可能な限り数週間以内に75g経口ブドウ糖負荷試験を実施した。除外基準には3か月以内にHbA1cに影響を及ぼす全種類の経口血糖降下薬(OHA)あるいはインスリンを使用した患者を含めた。また、アトキンスダイエットのような営利的な食事療法に基づいた厳格な炭水化物制限を行っている患者は除外した。
 適合基準を満たした347人の中で、OHAを服用している患者あるいはインスリンを使用している患者(n=105)は除外した。7人の患者がこの研究への参加に同意しなかった。また、食事日記の情報が不正確な患者(n=3)および既に厳格な低炭水化物食を行っている患者(n=3)も除外した。従って、最終的に本研究に適合した2型糖尿病の外来患者数は229人であった。全ての患者が書面によるインフォームドコンセントを受け、本研究のプロトコールは名古屋徳洲会総合病院の倫理委員会により承認された。

Dietary records and clinical assessment(食事記録と臨床的評価)

 3大栄養素の摂取量は、ベースライン時に3日間の食事記録に基づいて評価した。患者は連続しない3日間(平日の2日間と休日)に関する食事摂取量を記録することを求められた。食事記録は、灰本クリニックの初診から2週間以内に入手され、その期間に血中HbA1cを測定した。患者は調査期間中に全く食事内容の変更を指導されなかったので、食事記録は十分HbA1cに相関すると考えた。補足情報は管理栄養士による聞き取りによって得られた。食事摂取量は、Healthy Maker Pro 501(Mushroomsoft, Okayama, Japan)を用いて食事記録から計算された。
我々は患者個々のBMIを測定した。静脈の血液サンプルは、HbA1c、空腹時血糖、空腹時血清インスリン、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリドを測定するために、夜間(12時間)絶食後に採取された。また、患者の服用している脂質低下薬あるいは降圧薬の用量を記録した。
 調査に同意しなかった16人を除外し、203人の適格基準を満たした患者がインスリン分泌能を評価するために経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を受けた。患者へ少なくとも10時間の絶食後に灰本クリニックに来院するように指導し、ブドウ糖負荷から30分後、1時間後、2時間後に血液サンプルを採取し、血漿グルコース、血清インスリンを測定した。我々は、負荷後の早期インスリン分泌能の指標となるインスリン分泌指数を用い、負荷後30分のΔ血清インスリン(µIU/mL)/負荷後30分のΔ血漿グルコース(mg/dL)で計算した。全体のインスリン分泌能に対する血中濃度曲線下面積(AUC)は、台形公式を用いて幾何学的に計算された。インスリン抵抗性指数は次のように計算した。([空腹時血糖{mg/dL}]×[空腹時血清インスリン{µIU/mL}])/405

Sources of carbohydrate from various foods(様々な食物からの炭水化物由来食品)

 炭水化物含有量の多い食品は、主食と非主食の2群に分けられた。主食は米(米および餅)、小麦あるいはソバの実から作られた麺類(うどん、そば、ラーメン、焼きそば、パスタ)、パンとした。非主食は、果物、ソフトドリンク、アルコール飲料、その他の非主食食品に分類された。果物は、ミカン(マンダリンオレンジ)、オレンジ、グレープフルーツ、リンゴ、ナシ、モモ、柿、ブドウ、メロン、スイカ、バナナ、パイナップルを含めた。ソフトドリンクは、砂糖、ブドウ糖、果糖、ミルクを含有する飲料を含めた。アルコール飲料は、醸造酒(日本酒、ビール、ワイン)は含めたが、蒸留酒は炭水化物をほとんど含有しないため含めなかった。他の非主食食品は、砂糖、菓子、イモ類(サツマイモ、サトイモ、ヤマイモ)、野菜類、そして小麦、米、イモ類から作られたその他の食品(お好み焼き、点心、ポテトチップスなど)を含めた。野菜類は、ニンジン、レンコン、カボチャ、トマト、ゴボウを含めた。各食品の炭水化物含有量も、Healthy Maker Pro 501を用いて計算された。

Laboratory methods(検査方法)

 HbA1cは高速液体クロマトグラフィー(Arkley Co., Kyoto, Japan)によって測定し、NGSP(%):National Glycohemoglobin Standardization Programとして示した。血漿グルコースは酵素法(Shino-Test Co., Kanagawa, Japan)を用いて測定した。
 血清インスリンは標準的な二抗体ラジオイムノアッセイ法(Fujirebio Inc., Tokyo, Japan)用いて測定された。酵素法(Daiichi Pure Chemicals Co., Tokyo, Japan)は血清トリグリセリドを測定するために用いられた。直接法(Daiichi Pure Chemicals Co.)は血清LDLコレステロールおよびHDLコレステロールを分析するために用いられた。

Statistical analysis(統計分析)

 我々は男女別々に解析したが、それは男女で主要栄養素の摂取量が全く異なるからである。
 炭水化物の総摂取量の増加に伴うベースラインでの患者特性パラメータの上昇あるいは減少については、炭水化物摂取量を三分位に層別化したときに三分位1から3(Q1、Q2、Q3)に割り当てた三群に対して線形回帰モデルによって解析した。炭水化物摂取量の三分位それぞれに対して、年齢、BMI、糖尿病歴、血液化学検査(HbA1c、空腹時血漿グルコース、空腹時血清インスリン、血清脂質、インスリン分泌指数、OGTTを基にしたインスリンAUC)、栄養学的変数(炭水化物およびその由来食品の総摂取量、総カロリー摂取量、他の主要栄養素の摂取量)、脂質低下薬および降圧薬を服用している患者の割合などをまとめた。
 男女間における主要栄養素の摂取量の差を統計的に解析するためにMann-Whitney検定を用いた。
 回帰の主要な指標としてSpearmanの順位相関係数(rs)を指名した。Spearmanの順位相関指数は、総エネルギー摂取量、炭水化物およびその由来食品の総摂取量(g/日)、総摂取カロリーに対する%炭水化物及び%タンパク質、%脂質とHbA1cとの関連性を評価するために算出した。この研究の主要な指標となる炭水化物の総摂取量、%炭水化物、食品由来の炭水化物に対するSpearmanの順位相関係数はHbA1cと有意に相関しており、また食物繊維以外の炭水化物に置き換えることによっても評価した。
 重回帰分析は、総摂取カロリーおよび年齢で調整し、炭水化物およびその由来食品の総摂取量、%炭水化物、%タンパク質、%脂質とHbA1cとの関連性を調査するために行われた。我々はまた、アルコール由来のエネルギーを除いたカロリー摂取量を総摂取カロリー摂取量に置き換える方法を用いた。さらに、炭水化物の総摂取量および%炭水化物、HbA1cに有意に相関する食品由来の炭水化物から食物繊維を除いた炭水化物について解析を繰り返した。
 P<0.05は統計学的に有意とみなされる。データは平均±標準偏差のように示された。全ての統計解析はSPSS version 15.0(SPSS, Inc., Chicago, IL, USA)を用いて行われた。

Results

Baseline clinical and nutritional characteristics in men by tertile of total carbohydrate intake (g/day)
(男性における炭水化物総摂取量の三分位別ベースラインの臨床的および栄養学的特性(g/日))
 Table 1は男性患者(n=125)で炭水化物の総摂取量(g/日)を三分位に層別化した3群(Q1、Q2、Q3)の
ベースラインにおける臨床的特性を示している。平均HbA1cは8.2%±1.9%(レンジ:6.5%-15.4%)であった。炭水化物の総摂取量が増加するのに伴い、BMI、HbA1c、血清トリグリセリドの有意な上昇傾向を認め、年齢、糖尿病歴、血清HDLコレステロールは減少傾向を認めた。その他の項目における変化は見出さなかった。
 ベースライン時の栄養学的特性もTable 1に示した。平均の総摂取カロリーおよび炭水化物の総摂取量は、それぞれ2105±567kcalおよび272.0±84.6g/日(%炭水化物:52.2%±9.5%)であった。炭水化物の摂取量は139.9-611.6g/日の範囲に及んだ。炭水化物の総摂取量の増加に伴い、総カロリー摂取量、%炭水化物、タンパク質摂取量(g/日)、脂質摂取量(g/日)、主食、米、非主食、ソフトドリンク、他の非主食由来の炭水化物、主食および非主食、食物繊維由来の%炭水化物の増加が明らかであった。減少傾向は%タンパク質で認められた。

Baseline clinical and nutritional characteristics in women by tertile of daily carbohydrate intake
(女性における一日の炭水化物摂取量の三分位別ベースラインの臨床的および栄養学的特性(g/日))
 Table 2は女性患者(n=104)で炭水化物の総摂取量(g/日)を三分位に層別化した3群(Q1、Q2、Q3)のベースラインにおける臨床的特性をまとめている。平均HbA1cは7.6%±1.3%(レンジ:6.5%-12.3%)であった。炭水化物の総摂取量の増加に伴い、インスリン分泌指数が有意な減少を示したのを除いてHbA1cあるいは他の臨床的項目に変化は見られなかった。
 ベースライン時の栄養学的特性もTable 2に示した。平均の総摂取カロリーおよび炭水化物の総摂取量は、それぞれ1705±371kcalおよび226.7±61.5g/日(%炭水化物:53.4%±7.5%)であった。炭水化物の摂取量は117.1-513.1g/日の範囲に及んだ。3群にわたって総カロリー摂取量、%炭水化物、タンパク質摂取量、主食、米、非主食、ソフトドリンク、他の非主食由来の炭水化物、主食、非主食、食物繊維由来の%炭水化物の有意な増加を認めた。減少傾向は%タンパク質、%脂質で明らかであった。

Difference in macronutrient intakes between men and women
(男女間での主要栄養素の摂取量の差異)
 総カロリー摂取量(P<0.001)、炭水化物摂取量(g/日)(P<0.001)、タンパク質摂取量(g/日)(P<0.001)、脂質摂取量(g/日)(P<0.001)は女性より男性で有意に多かったが、%タンパク質(P<0.001)および%脂質(P=0.016)は女性より男性でより少なかった。%炭水化物に関してのみ男女間で有意差はなかった。

Correlations of total carbohydrate and its sources, and other macronutrients with HbA1c level in men
(男性のHbA1cレベルと全炭水化物とそのソース、他の主要栄養素との相関関係)
男性のHbA1cレベルにおける炭水化物と他の多量栄養素の相関関係は表3で示される。総炭水化物の摂取量(rs=0.368)(図1A)と総エネルギー摂取量(rs=0.384)は、HbA1cと正に相関していたが、炭水化物比はそうでなかった(図1B)(rs=0.063)。脂質比と蛋白比はHbA1cとは有意に相関していなかったが、蛋白と脂質摂取量の絶対値(g/日)は、正の相関および弱く相関していた。食物繊維を全炭水化物から除いても、全炭水化物(rs=0.362、P < 0.001)と炭水化物比(rs=0.065、P=0.473)でほとんど結果を変わらなかった。
 炭水化物の摂取量のソースに対して、我々は主食(rs=0.187)(図1C)と麺(rs=0.231)(図1D)からの炭水化物で、HbA1cとの正の相関だが弱い相関を見つけた。しかし、米(図1E)またはパンとの有意な相関関係はなかった。非主食(rs=0.386)、特にソフトドリンク(rs=0.325)(図1F)からの炭水化物は、HbA1cと正の相関、そして中等度に相関していた。我々が麺とソフトドリンク由来の炭水化物から食物繊維を除いたとき、相関関係は有意なままだった(麺からの炭水化物:rs=0.229(P=0.01)、清涼飲料からの炭水化物:rs=0.332、P < 0.001)。ソフトドリンクからの炭水化物が除外されたとき、HbA1cと非主食からの炭水化物の正の相関は消失した(表3)。有意な相関関係は、果物、醸造されたアルコール、他の非主食または食物繊維からは見つからなかった。
 全エネルギーで調整された重回帰分析では、全炭水化物および炭水化物比とHbA1cの相関関係は男性では有意なままだった(表3)。有意差は、大まかにソフトドリンク由来の炭水化物や、非主食由来の炭水化物では同じように残ったが、調整後は主食や麺由来の炭水化物との相関関係は消失してしまった。我々が食物繊維を炭水化物から除いたとき、結果は大まかには変わらなかった:全炭水化物(粗分析:β=0.11,P < 0.001;エネルギー調整:β=0.10、P < 0.001)、炭水化物比(粗分析:β=0.039,P=0.022;エネルギー調整:β=0.053,P=0.001)、麺からの炭水化物(粗分析:β=0.09,P=0.061;エネルギー調整:β=0.04,P=0.412)、そして、ソフトドリンクからの炭水化物(粗分析:β=0.30,P < 0.001;エネルギー調整:β=0.27,P < 0.001)。全エネルギーと年齢の調整したところ、パン由来の炭水化物(β=0.14,P=0.047)と果物由来の炭水化物(β=0.27,P=0.012)とHbA1cの相関関係は別として、結果は類似していた(データは示さず)。しかしながら、これらの2つの炭水化物のソースとの相関関係はスピアマンの相関係数によると有意でなかった。
 さらにまた、重回帰分析(データは示さず)でアルコール由来のエネルギーを除外し、総エネルギー摂取量がエネルギー摂取量と置き替えたとき、調査結果は大まかに変わらなかった。

Correlations of total carbohydrate and its sources, and other macronutrients with HbA1c level in women
(女性のHbA1cと総炭水化物およびそのソースおよび他の主要栄養素との相関関係)
男性とは対照的に、女性では4つの栄養素のみがHbA1cと有意な正相関を示した(表4;図2)。我々は,総炭水化物摂取量(rs = 0.251)(図2A)と総エネルギー量(rs = 0.282)との正の相関および弱い相関を見出したが、炭水化物比の相関はなかった(図2B)。主食からの炭水化物は正の相関であったが、弱く相関していた(rs = 0.266)(図2C)。米からの炭水化物は正の相関そして中等度の相関を示した(rs = 0.317)(図2D)。我々は、ソフトドリンク(図2E)および果実(図2F)由来の炭水化物、および他の栄養素との相関を見出せなかった。2つのはずれ値のデータは、果物からの炭水化物の分析から除外した。炭水化物から食物繊維を除いても、総炭水化物(rs = 0.261、P = 0.007)、炭水化物比(rs = 0.110,P = 0.268)、および米由来の炭水化物(rs = 0.317,P = 0.001)の調査結果は変わらなかった。男性とは対照的に、重回帰分析(表4)では、総エネルギーの調整後に、総炭水化物摂取量と主食および米からの炭水化物の相関関係の統計的有意性は消失した。炭水化物から食物繊維を除いた場合、結果は大まかには変化しなかった。すなわち、総炭水化物(粗分析:β= 0.05,P = 0.034,エネルギー調整:β= -0.01,P = 0.969)、炭水化物(粗分析:β= 0.012,P = 0.497;エネルギー調整:β= 0.009,P = 0.592)および米からの炭水化物(粗分析:β= 0.08,P = 0.009;エネルギー調整:β= 0.05,P = 0.129)。結果は、全エネルギーと年齢で調整しても同様であった。または、重回帰モデルで、アルコールによるエネルギーを除いた全エネルギーを総エネルギーと置換しても同様であった(データは示さず)。

Discussion

 糖尿病治療薬を服用していない2型糖尿病患者の炭水化物摂取量を評価するための3日間の食事記録を用いたこの研究は以下の結果を示した。
1)炭水化物摂取量(g /日)はHbA1cと明確に相関していたが、%炭水化物では男女両方で相関しなかった。
2)男性では麺類およびソフトドリンク由来の炭水化物はHbA1cと相関したが、米由来の炭水化物は相関しなかった。それに対し女性では米由来の炭水化物はHbA1cと相関していた。
この研究の主要な結果は、低炭水化物食に関する他の多くの介入研究と同じように、我々の以前の介入研究と一致している。しかし、東アジア諸国で行われた過去4つの観察研究は、炭水化物摂取量あるいは%炭水化物とHbA1cとは関連しないことを証明した。米国およびイランで行われた他の2つの観察研究は、炭水化物摂取量あるいは%炭水化物とHbA1cとの逆相関を証明した。では、なぜこのような矛盾が存在するのだろうか?我々の以前の研究では患者の30%、この研究ではゼロであったことと比較して、他の研究では患者の55-100%が経口血糖降下薬およびインスリンあるいはインスリン単独を使用していた。糖尿病治療薬の服用は、HbA1cの過小評価を導く。 もう一つの考えられる解釈は、以前の全ての研究では食物摂取頻度調査(FFQ)あるいは24時間思い出し法が用いられているが、それによってこの研究における食事記録と比較して炭水化物摂取量を推定する有効性がより低い。しかし、FFQは 微量栄養素を評価するのには適しているかも知れない。
炭水化物摂取の絶対量(g /日)あるいは%炭水化物は、2型糖尿病患者、特に低炭水化物食を実践している患者の食事管理に対してより有効で実用的な指標であるかどうかはまだ議論されている。この研究は、炭水化物摂取量はHbA1cと明確に相関したが、%炭水化物は男女両方で相関しないことを証明した。全炭水化物量とHbA1cとの関連は、カロリー摂取量によってある程度説明されるかもしれないが、重回帰分析における総カロリー摂取量および年齢での調整後も男性では相関が有意なままであった。臨床では、低炭水化物食または低脂肪食のどちらかに関わらず、どの様式の食事療法に従っても、患者は炭水化物(50%炭水化物)由来の50%カロリー、あるいは脂肪(20%脂肪)由来の20%カロリーより、「150gの米」または「茶碗1杯の米」(約55gの炭水化物を含む)および「卵2個」のように具体的な内容を示した指導を必要とする。我々が患者への指導に%炭水化物あるいは%脂肪を用いると、患者は総カロリーおよび主要栄養素の総摂取量の両方を計算する必要があり、これは大部分の患者にとって複雑で実用的ではない。これらの理由から、患者により指導を理解させるためには、炭水化物摂取量(g /日)が%炭水化物よりも適切であると信じている。
さまざまな炭水化物の豊富な食品のどれがHbA1cに影響を及ぼすかほとんど知られていない。米と麺類という2つの主食は、日本を含む東アジアで最も一般的な炭水化物由来食品である。 大規模長期コホート研究が、日本における米、中国における米および麺類の2型糖尿病の発症に対する影響を証明してきた。我々は、主に米および麺類由来の炭水化物に対する緩やかな炭水化物制限が、日本人の2型糖尿病患者においてHbA1cの顕著な低下をもたらすことを既に証明してきた。この研究において米は依然として主要な炭水化物由来食品であったので、我々はHbA1cに対してより大きな影響があると予測した。そのため男性では米とHbA1cに相関がないことを見て驚いた。
 この予想しなかった結果に対して考えられる原因を考えてみよう。一つ目は、性差である。現在の研究では、炭水化物摂取の主な由来食品は米であり、炭水化物の総摂取量の40%を占める。(男性:42%、女性:39%)男女で比較すると、女性は炭水化物の平均摂取量(89.4g/day)がより少なく、摂取量の標準偏差(SD=45.4g)がより大きいのに対して、男性は炭水化物の平均摂取量(113.2g/day)はより多く、摂取量の標準偏差(SD=58.6g/day)はより少ない。もしかすると摂取量の標準偏差がより少ないことが、男性では相関がなく女性ではその逆といった結果をもたらしたのかも知れない。二つ目に、低炭水化物食対低脂肪食を分析するためにデザインされた短期間の介入研究は、しばしば患者に対して厳格な炭水化物あるいはカロリーの制限を課するが、それが結果として現在の研究のような2型糖尿病の外来患者での介入研究と観察研究との間の大きな矛盾を導いてきた。三つ目に、ほぼ全ての介入研究が性差に注意を払ってこなかった。今後、性差に注目することによって東アジア人における米と麺類由来の炭水化物摂取量のHbA1cに対する正確な影響を明らかにすることができるだろう。
 多くの観察研究およびメタ解析によって、より多くのソフトドリンクの消費量が2型糖尿病の悪化に関係していることが示されている。また、ソフトドリンクの中等度の摂取は、持続血糖測定によって評価された2型糖尿病患者において24時間の平均血糖値を有意に上昇させた。数か月以上にわたるソフトドリンクの過剰摂取によって血糖コントロールは速やかに悪化し、いわゆるソフトドリンクケトアシドーシスを来たす。しかし、我々の知るところでは2型糖尿病の外来患者において、ソフトドリンク由来の炭水化物摂取量とHbA1cとの直接的な関連性を示した報告はほとんど存在しない。現在の研究では、男性ではソフトドリンク由来の平均炭水化物摂取量(19.1g/day)は非常に少なく、米由来の炭水化物摂取量のおよそ1/6であったが、HbA1cに対する影響は最も大きかった。HbA1cとソフトドリンクとの関連性は、米あるいは麺類との関連性よりも大きく、それは重回帰分析においてカロリーで調整した後も有意なままであった。対照的に女性では相関が見られなかった。この性差は、男性でのソフトドリンク由来の炭水化物摂取量におけるより大きな標準偏差(SD=35.6g/day)によって説明されるかも知れない。具体的に言うと、男性患者の3/4以上ではソフトドリンク由来の炭水化物摂取がないかわずかな量であり、そのHbA1cは低かったが、残りの1/3ではソフトドリンク由来の炭水化物摂取量がより多く、そのHbA1cは高かった。対照的に女性患者ではその関連性は見られなかったが、おそらくそれはソフトドリンク由来の炭水化物の平均摂取量(8.4g/day)が少なく、摂取量の標準偏差(SD=14.3g/day)が小さいからであろう。
 総摂取カロリーで調整後の回帰分析では、炭水化物の豊富な食品の関連は有意なままであったが、他の食品の関連は有意ではなかった。血糖コントロールあるいはHbA1cに対する炭水化物摂取量とその由来食品の正確な影響を評価するために、多くの研究で適用されている総摂取カロリーによる調整を再検討する必要があるかも知れない。カロリーの定義はin vitro(試験管内)での試験に基づいているため、人体からの応答のようなin vivo(生体内)の環境には適用すべきではない。それゆえ、人体がカロリー源の消化と吸収にどのように反応し、どのように代謝されるかを考察する事がより適切である。血糖コントロールに関しては、炭水化物由来のカロリーではなく炭水化物自体の摂取が、食後血糖を上昇させ、インスリン分泌を刺激する。これは、脂肪あるいはタンパク質摂取が食後血糖およびインスリン分泌をほとんど増加させないという事実によって支持される。したがって、HbA1cに影響を及ぼす炭水化物の豊富な食品に対するより詳細な理解に照準を当てた今後の研究は、総摂取カロリーより食後血糖、HbA1cに直接影響を及ぼす運動、インスリン分泌能、インスリン抵抗性と同様、一日の炭水化物摂取の絶対量に直接影響する性別、年齢、体重、社会的および経済的状況を検討すべきである。
しかし、この研究におけるいくつかの限界は、結果を解釈する際に心に留められるべきである。第一に、3日間の食事記録は、非主食は主食と同様の頻度で消費されないため、非主食由来の炭水化物摂取量に関する正確な情報を得るためには十分でないかも知れない。より長い期間の食事記録が必要であろう。第二に、運動に関する情報が入手できなかった。第三に、我々の患者の%炭水化物摂取の平均は、一般的な日本人(男性:58%-61%、女性:56%-59%)よりも幾分低かった。ある患者は、我々のクリニックを初めて受診する前に既に炭水化物摂取に注意していたかも知れないし、食事記録に炭水化物の豊富な食品の消費量を過少評価していたかも知れない。
しかし、FFQを用いた日本人2型糖尿病患者(平均年齢:男性58歳、女性59歳)1516名の以前の食事調査は、平均%炭水化物は男性で53%、女性で54%と報告し、それはこの研究における割合と類似している。

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