日本ローカーボ食研究会

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第8回学術総会の印象記2

第8回 日本ローカーボ食研究会 学術総会(2018.03.11) 印象記

 灰本クリニックの灰本耕基(はいもとこうき)です.私は消化器内科医として市中病院で13年間勤務しておりましたが,2018年1月より灰本クリニックで診療を開始しております.この度は初めて学術総会に参加しました.私の勤務してきた病院では,ローカーボ食はマイナーな存在であり,糖尿病の食事療法はまだカロリー制限食が中心でした.私も研究会を通じて勉強を重ねて行こうと考えております.
 今回のテーマのひとつである「心不全の食事療法」は,塩分制限がその中心となっていると言えます.しかし,そのようなマニュアル通りの治療を行った際に,特に高齢の患者さんでは,逆に病状が悪化してしまう症例に出会うことが多々あります.疾患に応じた厳格な食事制限が,食欲や生きる気力を失わせ,病状が悪化したのではないかと考えられます.このような観点から,今回の学術総会のテーマは「健やかに老いるための高齢者の生活管理」となりました.午前中は2人の講師をお招きし,高齢化に伴って増え続けている心不全の栄養管理についてご講演頂きました.午後は,マニュアル通りの治療がかえって病状を悪化させた教訓的な症例について,各々の施設が発表しました.
 春日井市民病院循環器内科部長の小栗先生には,中規模病院における高齢者心不全の実態を,実データをふんだんに提示して解説頂きました.春日井市民病院では,心不全の入院患者の平均年齢が80歳を超え,併存疾患が4つ以上ある症例では,死亡率や再入院率が極端に上がっており,現場からの悲鳴が聞こえてくるような内容でした.名大医学部保健学科の理学療法学専攻教授の山田先生は,専門はリハビリと伺っていますが,心不全患者の長期管理,特に高齢者のフレイル(=脆弱性)予防の栄養管理についてご講演頂きました.同化と異化のバランスの破綻から生じるフレイルのメカニズムや最新の研究データをご提示頂き,非常に興味深い内容でした.午後からは各々の施設が趣向を凝らしながら症例発表を行いました.高齢者の心不全にかかわる症例発表も多かったため,小栗先生に参加して頂き,ディスカッションをしながらの意見交換ができました.
 今回の総会は,ローカーボ食ではなく,半分以上の内容が心不全や高齢者のフレイルに関わる内容となりました.糖尿病の新しい食事療法として発展してきたローカーボ食ですが,急速に高齢化が進む現在の日本において,ローカーボ食のみでその窮地を乗り切れる状況ではなく,患者さんの年齢,性別,家庭環境,疾患の活動性,併存疾患を考慮しながら,その時々に合わせた栄養管理が必要になってくるものと考えます.私の消化器内科医としての経験ですが,末期肝硬変で肝性腹水が大量に貯留した患者さんで,入院させて厳格な塩分制限・蛋白制限を行ったところ,ほとんど食事が食べられなくなり,余計に血清アルブミンが低下して腹水が増悪した症例を複数経験しています.高齢者が疾患の悪化によってフレイル・プレフレイル状態に陥った場合には,柔軟な対応が求められ,時にはハイカーボ食で体重を維持したり,時には減塩食や蛋白制限を解除して食欲増進を図ったりすることの重要性を改めて感じました.来年の総会のテーマはまだ決まっていませんが,ローカーボ食に拘らず,このような日本の医療の現状に即したテーマについて議論していく必要があると思いました.

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