日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

演者1

灰本クリニック 灰本 元

1.ローカーボ食の現状

ローカーボ食(low-carbohydrate diet、炭水化物・糖質制限食)は20世紀初頭には糖尿病食事療法の主流であった。その後、インスリンや糖尿病薬の開発とともに忘れ去られたが、1970年代から民間療法のAtokins’ dietとしてアメリカで一般に広く浸透している。アメリカでの臨床研究は2003年頃から現在まで肥満、高脂血症、糖尿病の分野で数百編の論文が発表されている。日本では2006年頃から民間療法として始まったが、医療機関への普及はほとんど進んでいない。私たちは2003年からローカーボ食を糖尿病治療へ導入、2008年から日本人糖尿病の臨床研究を発表している。

 欧米でも日本でも民間療法として始まったこと、糖尿病薬が大幅に減るので製薬メーカーの支援が得られないこと、糖尿病学会がローカーボ食を認めようとしないこと、食品メーカーと医療機関の共同研究体制が整っていないこと、などさまざまな社会的な課題がある。

2.ハイカーボ食(高炭水化物・低脂肪食)と比較したローカーボ食の特徴

(1)エネルギー源としての炭水化物摂取と脂肪摂取は一方が増えると他方が減る関係にある。ローカーボ食は低炭水化物・高脂肪食であり、ハイカーボ食は高炭水化物・低脂肪食である。

(2)ローカーボ食ではケトン体と脂肪酸を細胞が利用し、インスリン分泌は不要。

(3)短期的(<6ヶ月)、長期的(2年)に血糖、HbA1cの低下。

(4)血清脂質の改善(HDLの増加と中性脂肪の低下は確実、LDL低下は施設で異なる)。

(5)体重減少、食欲低下、糖尿病薬やインスリン使用量の減量が可能。

(6)長期の脱落率は低くない。副作用は軽い便秘。

3.ローカーボ食の課題:世界の大規模長期観察コホート研究から

 アメリカの研究からローカーボ食はハイカーボ食よりも死亡率が高く、特に癌死が多いことが明らかとなった。詳しい解析によると、動物性脂肪・蛋白質摂取群ではハザード比(癌死+心脳血管死)が上昇したが、植物性脂肪・蛋白質摂取群では逆に低下した。前者ではより厳しい、後者では緩やかな炭水化物制限が行われていた。また、ギリシャの研究では、地中海型ローカーボ食群<ハイカーボ食群<ローカーボ食群の順にハザード比が上昇した。

4.日本型ローカーボ食の提案

 ローカーボ食が糖尿病、高脂血症、肥満の治療にハイカーボ食よりも優れていることはすで多くの研究から確立されている。しかし、癌死の増加は死因の一位である日本人では重い課題となる。

 糖尿病の軽症~中等症(HbA1c<9.0%)では緩やかな(炭水化物率35~45%)ローカーボ食で十分な血糖コントロールが可能である。上記の大規模コホート研究の結果を考慮すると、緩やかな炭水化物制限を基本に植物性脂肪・蛋白質を中心に摂取して、動物性脂肪・蛋白質(特に赤肉)制限する方法のローカーボ食が推奨される。日本人では伝統的日本食に緩やかな炭水化物制限を行い、植物性脂肪・蛋白質摂取を増やし、動物性脂肪を増やさずに魚、海藻、野菜摂取を堅持する食事療法、つまり日本型ローカーボ食を提案したい。この日本型ローカーボ食は地中海型ローカーボ食にきわめて近い。

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