日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

名古屋生活習慣病フォーラム

名古屋生活習慣病フォーラムの報告

 じん薬局 薬剤師 加藤 仁
平成26年2月22日(土)にホテル キャッスルプラザにて新しい勉強会
「名古屋生活習慣病フォーラム」が開催され、当日は医師を中心に多くの先生方にご参加いただきました。当日は、お二人の医師の講演がありましたので内容をお伝えします。

「穏やかな糖質制限食による糖尿病治療の最前線」灰本クリニック 灰本 元院長
 灰本先生の講演は、いつもながら説得力満載の講演でした。NPO日本ローカーボ食研究会から発刊された教科書(啓蒙書)に書かれている内容にプラスαの形での講演です。
当日は時間に制約がある中、大規模臨床試験やコホート研究、メタアナリシスの結果から次のようなポイントを教えていただきました。
①糖尿病では降圧薬や抗高脂血症薬を使って血圧やコレステロールをコントロールすれば、脳や心血管障害では死なない時代になった。
②心血管障害に代わって重大な合併症は癌死(30-70%増加)と認知症(200%増加)となった。
③HbA1cは7.5%前後で最も死亡率が低く、それより下げると低血糖が増えて心血管死や認知症の増加につながる。
④70歳以上の高齢者では目標HbA1cは7.5%未満、認知症・癌・心臓や肺の慢性疾患などを合併するとさらに緩める方向性が正しい。
さらに、日本人における体重と死亡の危険度をみたJPHC研究とJACC研究という大規模臨床試験の結果から、日本人では痩せれば痩せるほど、死亡の危険度が増える。そんな背景の中で厳しい糖質制限を行えば、体重がみるみる落ちて危険極まりない。
だから糖質制限は緩やかに行うべきであることも実際の臨床データを用いて教えていただきました。現在巷には、厳しい糖質制限をすすめる書籍が並んでいますが、それがいかに無責任で恐ろしいことなのかを思い知らされた次第です。

「糖尿病治療薬のエビデンス~合併症予防効果と発癌リスク~」
国立国際医療研究センター病院
糖尿病・代謝・内分泌科医長 糖尿病研究部室長   
能登 洋医師
 この講演の中でとても印象に残った言葉は、「エビデンスとは、科学的根拠ではなく、臨床研究による実証である。」という言葉です。臨床による実証だからエビデンスには誤差があり、それを考えて論文やガイドラインなどを読み進めなければいけない。さらに臨床研究は現実を見直し、確実性を第一に目指すものであり、臨床アウトカム改善を目的とすべきで、診療の対象は検査値ではなく患者さん自身であるともおっしゃっていたのがとても印象的でした。
当初は、研究畑の先生で、あまり患者さんの診察をしていない先生だろうと想像しておりましたが、全く正反対で臨床を第一にしてさらにその上で数多くの論文をコツコツ読み、解析し直して、ご自身の臨床に役立てている先生でした。
また論文を読み進める上での注意点として、いくらメタアナリシス(複数のランダム化比較試験の結果を統合し、より高い見地から分析する研究)だからと言って鵜呑みにしてはいけない。一次エンドポイントと二次エンドポイントの違いに注意しなければならない。二次エンドポイントは、ある意味オマケであり、仮説を検証するものではなく、提唱するものであると教えていただきました。正直、海外論文を読み慣れていない私からすると、メタアナリシスと聞くと教科書的存在に感じてしまい、その論文の妥当性を検証するなんてことは考えにも及びませんでした。
 能登先生のお勤めの国立国際医療研究センター病院は、国(厚労省)の事業の一つとして、「糖尿病標準診療マニュアル作成とその有用性の検証」を行っており、当日はそのマニュアルの解説もしていただき、その中で目を引いたのは、個別化血糖目標例です。従来の「良・可・不可」で分かれているのではなく、「厳格(HbA1c<6.0%)・寛容(HbA1c<8.0%)」を用いてさらに色々な要因ごとに分けられています。しかも但書に、「過度の血糖低下により大血管症や死亡が増加する可能性がある。また、高齢者に対するエビデンスはない。」と根拠になった論文も記載されていて、今までの基準とは違ったものになっています。これは灰本先生の講演の中にもあった「世界のガイドラインはHbA1cの目標値を緩めて個別化している」との内容と全く同じでした。やっぱり実臨床を大切にし、さらに海外に目を向けている医師は同じ方向に向くのだと感じる部分でした。
 その他に、糖尿病の発癌リスク、糖尿病治療薬の発癌リスクについての解説があり、その中で大きく分けて5つのことを解説されていました。
①糖尿病は肝臓癌、すい臓癌、大腸癌、乳癌、膀胱癌などのリスク増加と関連がある。一方では前立腺癌のリスクは減少することに関連している。
②健康的な食事、運動、体重コントロールは2型糖尿病およびいくつかの癌の罹患リスクを減少し予後を改善する。
③医療者は糖尿病患者に対して性別・年齢に応じて、適切に癌のスクリーニング検査を受診するように勧めなければいけない。
④いくつかの糖尿病治療薬(ピオグリタゾンやグリメピリドなど)と癌罹患リスクとの関連がいくつか報告されているが、現時点では糖尿病治療薬を選択する際に癌のリスクを主要な検討事項とするのは時期早々である。
⑤メトホルミンの癌抑制作用については、多くの臨床研究が進められていて良い結果が多く報告されているが、それらの研究の多くが「選択バイアス」や「情報バイアス」などの影響を受けやすい解析を行っているため、メトホルミン使用による癌抑制効果を過大評価している可能性もあり、メトホルミンが癌リスクを低下させるかどうかは、今後さらなる検討が必要。
という内容でした。個人的には、メトホルミンによる癌抑制効果がはっきりと示され、保険適応される時が早くやってくることを切望しています。
 今回の生活習慣病フォーラムは糖尿病についての講演でしたが、今後、生活習慣病に関係する疾患について継続的に行われる予定だと伺いました。ぜひ多くの医療関係者が参加し、最新の知識を学び、議論する場が続いていくことを楽しみにしています。私自身もぜひ、今後も参加し学んでいきたいと思います。

おすすめコンテンツ

賛助会員

協賛医療機関

医療法人芍薬会灰本クリニック むらもとクリニック