日本ローカーボ食研究会

日本ローカーボ食研究会

第13回定期勉強会 印象記 加藤仁

じん薬局 薬剤師 加藤仁 先生 

 平成29年9月10日(日)に行われたNPO日本ローカーボ食研究会定期勉強会に参加させていただいたので、その内容を報告したい。

当日は日曜日の午前中で天気にも恵まれ、どこか行楽に出かけたくなる陽気だったが、貴重な症例報告や細胞生理学の講義が聞けるとあって楽しみに参加した。
症例検討では小早川医院の管理栄養士、江口まどか先生と森山真衣先生から各1題ずつ症例提示をしていただき、参加者が意見を出し合いながら、処方医・担当管理栄養士などと議論を深めました。
1例目の症例は、40歳代男性、独居、営業職のサラリーマンについてで、仕事柄接待が多く、また自炊をしない方のためどうしてもコントロールが不良になるケースである。特に昼食は外回りの為、手軽に食べれるラーメンや丼ものが中心となる。いつも思うが、独身男性で仕事をバリバリこなしている人ほど食事は無頓着になりがちである。
自分も人の事は言えないのだが…。
とくにサラリーマンの定番昼食といえば、半チャー・ラーメンであることは想像に難くない。炭水化物の重ね取りだが、バリバリ仕事をしているとこの位の物が食べたくなるのだと思う。ましてや自炊をしないと来れば、どうして良いものやら。
以前灰本クリニック管理栄養士の渡邉志帆先生から、内食・外食の話を聞いたがそれを思い出した。工夫次第では、コンビニのお惣菜でも十分糖質制限ができる。ただしこれは正しい知識があってこそであるので、管理栄養士の腕の見せどころではないだろうか?この方の場合、HbA1c=12.0% → 8.3%まで投薬と栄養指導で持ってきたが、この後如何にこれを持続するかが問題である。脂質異常や高血圧の合併症もある為、もう少しHbA1cを下げたいが、どうしてもご本人の食事制限のモチベーションが落ちてきてしまっている。このケースは正直参加者の皆さんも頭を悩ませていた様子。
結論としては、ここまでの食事制限と投薬でHbA1cは改善傾向にあるため、これを持続できるようにこまめにアプローチを続けることとなった。
 2例目の症例は、MEC食を実践している患者さんのケースであった。
MEC食とは沖縄県にある、こくらクリニックの院長である渡辺信行医師が考案した食事療法で、糖質(炭水化物)を制限する点ではローカーボ食治療と同じだが、正直かなり過激(宗教色の濃い)な食事療法である。Meat(肉200g/day)・Egg(卵3個/day)・
Cheese(チーズ120g/day)を食べたい時にいつでも良いので食べる。ただし良く噛むこと(1回に30回以上咀嚼すること)。MECを食べた後であれば野菜やご飯を食べても良いと言う正直耳を疑う食事療法である。
MEC食療法をインターネットで検索してみると、これまた胡散臭さ満点である。半年で50kg痩せただのなんだのと…。開発者の渡辺医師はこの方法で、生活習慣病に苦しむ患者さんを3000人以上治療してきたと謳ってはいるが…。
これは言い換えれば大変厳しい糖質制限(3食抜き)であるため、2010年に発表されたメタアナリシス(Fung TT et al. Ann Inter Med 2010)からも言えるように「癌死」が増えると思われる。短期間(1ヶ月程度)であれば体重減少などに有効だとは思われるが、これを長期間行うことは大変危険であると言わざるを得ない。
実際この症例の患者さんは、MEC食を7年も続けており、1回目の食事日記から得られたP:F:C比は、(g)で77:86:22と一日の糖質摂取量がたったの22gと驚きの数値だった。こんな食事を7年も続けたとなると…である。担当管理栄養士さんの話によるとMEC食を長期間行うと糖質を取ることへの恐怖(元に戻ってしまうのでは?、糖質は悪!)が表に出てきて、糖質を受け付けようとしなくなると。2回目の栄養指導時には、「3食食べようと心がけているが厳しく、パンを食べてみたがどのように食べるか忘れてしまった」と話されたという。飽食の現代でこのような発言が出るとは驚いてしまった。さらにこの方は会社の経営者で倒産の危機にある状態とのこと。精神が持たない状況下でこんな食事をしていたら痩せる一方で、体調が悪くなるに決まっている。
本人の受診動機も「最近調子が悪く、不安になり受診した」である。この症例へのアプローチとしては、まず栄養指導を中止し、とにかく普通の食事をするよう指導し癌の予防をしつつ、一番大切なことは自殺しないようにメンタルケアに重きを置くということで会場は一致した。
 話は少しそれるが、MEC食について少し考えてみた。なぜMEC食というネーミングなのか? MEC食はきちんと考えれば「厳しすぎる糖質制限(ダイエット)」である。
しかし一般人には判断がつかないだろうと思う。糖質制限(ダイエット)と似ているが、MEC食と名前を付ける事で差別化したということ。すでに糖質制限(ダイエット)が流行してから、(微妙に異なる)糖質制限ダイエットがいいですよ!と紹介してもまったくインパクトがない。だからさらに糖質制限(ダイエット)を一歩進めてMEC食とする事で、紹介しやすくなり書籍も作りやすくなる。いわばMEC食というのは一種のマーケティング方法として紹介されているのだと思う。なぜなら魚を食べるのは面倒だと思う現代人が多いからで、実際魚は調理も面倒、食べるのも骨があって面倒、後片付けも面倒と思う人が増えていると聞いたことがある。つまり魚は人気がないのである。これで魚を入れて「MECF食」として、魚(Fish)を食べましょうとなれば恐らく人気が出ないだろう。インパクトが強く、受け入れやすい方法を紹介した方が人気が出る。そのためにタイトルから魚は外されたのだと想像する(あくまでも想像)。医師のプライドと出版社のマーケティングが融合してできた食事法。それがMEC食ではないかと邪推してしまった。
 最後に名古屋大学生物学名誉教授の加藤 潔先生から「グルコースの膜輸送と糖尿病の治療」と題して講演していただいた。まず糖尿病の治療に使われる医薬品がどのように体内で作用し効果が出るのかを理解するために、血糖値がどのように上昇下降するのかを分かり易く解説していただいた。血液循環系にグルコースを搬入する過程(loading)=血糖値の上昇を招く、血液循環系からグルコースを搬出する過程(unloading)=血糖値の下降を招く、この現象を血糖値の恒常性維持に関係する臓器細胞のグルコース輸送能の図として体内をまとめたスライドをご提示いただいたが、これがその輸送に係る酵素などもまとめてあり私が学生時代に使用した生化学の教科書よりも大変分かり易く、筆者によってこんなにも変わるものなのかと改めて、加藤先生の物事を多角的に捉えてそれを他者に分かり易く解説するという能力に感嘆しました。その後も現在発売されている糖尿病治療薬がどこに作用し、どうして効果が出るのかを分かり易く解説いただいた。最後の2型糖尿病の治療のまとめのスライドでは下記の3点をご教示いただいた。糖尿病治療の対処療法に置いては至極当然の内容であり、常に念頭に置いて実臨床に当たらねばならないと素直に感じました。

①食事療法(栄養指導) → 糖摂取の調節(適正化)
②運動療法(生活指導) → 糖消費の活性化
③薬物療法(服薬・注射) → 血糖消費増大、糖新生の抑制

加藤 潔先生には今までに4回の講義をしていただきましたが、いつかこれらをまとめて一つの教科書にしていただきたいと思いました。

おすすめコンテンツ

賛助会員

協賛医療機関

医療法人芍薬会灰本クリニック むらもとクリニック