日本ローカーボ食研究会

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66.5大陸18ヶ国において脂肪・炭水化物摂食が心血管疾患・総死亡におよぼす影響について

5大陸18ヶ国において脂肪・炭水化物摂食が心血管疾患・総死亡におよぼす影響について(PURE:Prospective Urban Rural Epidemiology=都市・郡部における前向き疫学研究):前向きコホート研究
Association of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE): a prospective cohort study
Mahshid Dehghan, et al,
The lancet.com Published online August 29, 2017
http://dx.doi.org/10.1016/ S0140-6736(17)32252-3

背景:主要栄養素と心血管疾患・総死亡との関係は、いまださまざまな意見がある。これまでに得られているデータは、たいていはヨーロッパや北アメリカのように栄養過剰な地域を対象としており、そのデータを他の地域の人々に適応できるかどうかは、結論が出ていない。

方法:PURE(Prospective Urban-Rural Epidemiology)研究は大規模コホート疫学研究で、18ヶ国の35~70歳の人を対象(2003年1月1日~2013年3月31日に登録)として、中央値にて7.4年間(四分位範囲 5.3~9.3年間)の経過観察が行われた。そして、FFQを用いて135335人の食事内容を記録した。
一次アウトカムは、全死亡と主要心血管イベント(致死的な心血管疾患、非致死的な心筋梗塞、脳卒中、心不全)とした。二次アウトカムは、全心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡、非心血管疾患の死亡とした。炭水化物、脂肪、タンパク質摂取量のエネルギー比に基づいて、参加者を5分位にグループ分けし、炭水化物や脂質(あるいは飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸)の消費量と、心血管疾患や全死亡との間に関連性があるかどうか、Cox Frailtyモデルを用いてハザード比(HR)を算出して検討した。

結果:経過観察中、5796名が死亡し、4784名に主要心血管イベントが認められた。高炭水化物摂取は、全死亡リスクを増大させた(最大摂取5分位群 vs 最小摂取5分位群 HR=1.28 [95%信頼区間 1.12~1.46] p trend=0.0001)が、心血管疾患や心血管死リスクとは関連しなかった。全脂肪摂取は、飽和脂肪酸摂取、不飽和脂肪酸摂取とともに、いずれも全死亡リスクを減少させた(最大摂取5分位群 vs 最小摂取5分位群 全脂肪摂取HR=0.77 [95%信頼区間 0.67~0.87] p trend<0.0001;飽和脂肪酸摂取HR=0.86 [95%信頼区間 0.76~0.99] p=0.0088;一価不飽和脂肪酸摂取HR=0.81 [95%信頼区間 0.71~0.92] p trend<0.0001;多価不飽和脂肪酸HR=0.80 [95%信頼区間 0.71~0.89] p trend<0.0001)。飽和脂肪酸摂取が増加すれば、脳卒中リスクも低下する(最大摂取5分位群 vs 最小摂取5分位群 HR=0.79 [95%信頼区間 0.64~0.98] p trend =0.0498)。総脂肪摂取、飽和脂肪酸摂取、不飽和脂肪酸摂取は、心筋梗塞や心血管疾患死亡リスクとは関連しなかった。
表(主要栄養素摂取エネルギー比と臨床アウトカムの関係性)

1.png

解釈:炭水化物摂取は、全死亡リスクを増加させるが、全脂肪摂取(飽和・不飽和の種別に関わらず)は、全死亡リスクを減少させる。

全脂肪摂取(飽和・不飽和ともに)は、心血管疾患、心筋梗塞、心血管疾患死亡リスクとは関連しなかったが、飽和脂肪酸のみ、脳卒中リスクを減少させた。これらの結果に照らし合わせて、全世界的に食事ガイドラインを再考すべきと考えられる。

限界:

・FFQによる食事評価は、栄養素の絶対量ではなくエネルギー比であること。
・食事調査を、経過観察開始時点での評価しか行っていないこと。
・社会における健康常識や、個々人の健康志向の変化が、結果に影響を与えうること。
・コホート研究につきものの交絡因子に、結果が影響を受けること。
・トランス脂肪酸を調査していないこと。
・多価不飽和脂肪酸摂取量を、植物油よりも食物中の含有から評価したこと。

 

読後感想:長らく脂肪摂取(とくに飽和脂肪酸)は心筋梗塞リスクであると教えられてきた。しかしながら、脂肪摂取が多いと全死亡リスクが低い傾向があることは、日本人(男性)においては高山研究(J Nutr 20, 2012)などで示唆されていたため、脂肪が健康食品であるのは日本人特有の傾向だと思っていた。しかし、実は全世界においても、脂肪が健康食品であることが、より明確に示された。これは、たいへん驚きの結果である。日本人の脂肪摂取率はおおよそ25%程度(JACC研究 Nutr Metab 11, 2014)であるが、本論文において、脂肪摂取の多い北アメリカ・東南アジア・中東においてさえ30%程度。脂肪摂取の少ない中国においては17.7%。南アジアやアフリカも、日本より脂肪摂取が低い。すなわち、現代日本の食事事情は、決して低脂肪ではないということも明らかになった。
また、炭水化物を制限しすぎると全死亡リスクが上昇することが証明されていたが、今回は、炭水化物が少なければ少ないほど全死亡リスクは下がった。それもそのはずで、炭水化物最少摂取五分位の炭水化物摂取率が46.4%平均であり、これは1CARDなどのゆるやか炭水化物制限レベルである。本論文をもって、炭水化物をカットすればするほど全死亡リスクが減ると結論付けるのは、勘違いというものである。
本論文は、これまでの当研究会の推進してきた“ゆるやか炭水化物制限”の妥当性が裏打ちされたと同時に、“脂肪は健康食”であるということを鮮明にしてくれた、と位置付けることができる。(医師 中村 了)

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