
アメリカではローカーボ(糖質制限,低炭水化物)食の人口も多く歴史も長いので,大規模で長い期間のローカーボ食とハイカーボ食を比べて研究が出始めました。それはローカーボ食を推進する私たちに大きな衝撃を与えました。人体は単純ではありません。目前の血糖値が下がっても,癌などで早死にしたらローカーボ食の意味がありません。ローカーボ食は大きな課題を背負うことになりました。
ギリシャやスウェーデンの大規模な長期観察によると,ローカーボ食はハイカーボ食に比べて死亡率は高くなりました。最も大規模で長期間の研究を行ったハーバード大学によると13万人26年間大規模・長期間観察では、炭水化物・糖質の制限を厳しくすればするほどハイカーボ食に比べて男女とも総死亡率は上昇しましたが(図),統計的に差があったのは男性だけです。ローカーボスコアとは,1がハイカーボ食,10が35-37%炭水化物制限でだいたい1.5食~2食制限のレベルです。
これは私たちにとって驚くべき結果でした。ハイカーボ食に比べて血糖値,コレステロール,体重が減少するのに死亡数がふえるのはどうしてでしょうか?ハーバード大学はさらに詳しい食事の解析をしています。
その結果,ローカーボ食でも動物性脂肪・蛋白質が中心の患者ではハイカーボ食に比べて明らかに総死亡数が増えましたが,植物性脂肪・蛋白質中心
ではハイカーボ食に比べて変化がないか,むしろ減っていました(図)。総死亡数には癌死と脳心血管死の両方が関係していました。ここで問題は,動物性脂肪・蛋白質中心群の食事内容です。この群ではだいたい35%前後の炭水化物率で,これは1.5食~2食制限に一致しています。つまり,やや厳しい(2食制限)ローカーボ食でもよくある状況なのです。一方,植物性脂肪・蛋白質中心では40%-炭水化物率で,これは1食制限に一致します。
ハーバード大学の大規模な研究は,緩やかローカーボ食は安全ですが,厳しいローカーボ食は危険な可能性が高いことを教えてくれました。
ローカーボ食で治療すると体重が減少しますが,日本の糖尿病ではやせた糖尿病が3/4を占めており,過度な体重減少が問題になります。 国立がんセンター大規模コホート研究(4万人,10年間)の結果では,男性ではややぽっちゃり型(BMI25-27))が最も死亡率が低く,やせ型(BMI<20)ではやせるにつれて
死亡率が増し,それは肥満型(BMI>27)よりも高くなっています。つまり癌死も含めた総死亡率ではすこし太めの体型が最も長寿のようです(図)。
一般に言われるようないわゆるスリム型(BMI=22)が最も長寿という科学的根拠は全くありません。ローカーボ食によってもともとやせた患者の過度な体重減少は癌も含めた総死亡率で考えると大きな問題となります。
ローカボ食の副作用には重大なものはなく,せいぜい便秘気味になることがですが,下剤が必要になる症例はわずかです。副作用ではありませんが,過度な体重減少と,糖尿病薬を内服している場合に低血糖に注意が必要です。
経口糖尿病薬,特にSU薬(アマリール,オイグルコン,ダオニール,グリミクロンなど)を使用している患者さんが,厳しいローカーボ食をしっかり実行するとすぐに低血糖が起こる可能性があります。もっと危険なのはインスリン治療中にハイカーボ食からローカーボ食へ転向するときです。この二つの場合には医師の管理下で,開始直後の一月は来院の回数を増やして血糖と食事内容を頻回にチェックしながら,SU薬やインスリンを減量しなければなりません。ローカーボ食を理解した医師の管理下で実行して下さい。