投稿日時: 2013/05/24 20:51:00
加藤 潔記
ヒトとデンプン食との関わりから見える2型糖尿病とその食事療法について
-2型糖尿病(T2DM)と食事制限-
栄養が過剰であるか否かは摂取栄養及び運動の質と量とが関係し、ヒトの生活習慣及び年齢に大きく依存する。従って、足るを知る食事と適度な運動はT2DMの発症を予防し、発症後もその進行を遅らせる極めて有力な方法である。T2DMの発症及び進行を遅らせるためには、先ず加齢と共に低下する基礎代謝量と生活形態から自ずと決まる適量栄養の摂取をめざすことが基本となる。過剰な栄養摂取を防ぐ為の食事制限は、先のノールウェイの調査研究を引くまでもなく大前提となる。その上で、主要三大栄養素のタンパク質(P)、脂肪(F)、炭水化物(C)をどのようにどれだけ摂取すべきかが問題となる。この問題はDMが歴史に刻まれて以来の問題で、今日に至ってもなお未解決の問題であり、本研究会の主要研究課題の一つでもある。
食事制限によるDM治療の歴史は試行錯誤を繰り返した。初期には、尿糖として失われる糖分を食事で補充するとの発想のもとに糖分の補給処置を施したものの、却って病を悪化させ死期を早めた例、尿糖が出なくなる水準にまで摂食を減らすことを強制して患者をほとんど飢餓状態にして延命を図ったものの、患者の死期をいたずらに引き延ばすだけに終わった例など、悲惨な事例が記録に残されている。既に触れたように、患者に大変な苦痛を強いるこれらの食事療法は、インスリンの発見により次第に姿を消していった。しかし、患者が食事制限から解放されることも、病が完治することもないところにこの病の難しさがある。しかし、食事制限は科学的根拠に基づき然るべくデザインされれば、患者に強いる苦痛を軽減してより受け入れられやすい療法へと発展する余地がまだ残されているように見える。
T2DMと診断されると、通常は先ず摂取カロリーの抑制が言い渡され、同時に適度の運動が推奨される。運動は患者の誰しもが可能であるとはいえないから、摂取カロリーの制限に重きが置かれ、糖分の摂取制限に加えエネルギー含量の高い脂肪分の摂取は特に厳しく控えるように指導される。
DMにおいては、過去1~2ヶ月の血糖値の指標である糖化ヘモグロビンA1c値を上昇させる原因として、食後血糖値の急激な上昇とその後の緩慢な低下が問題視される。前回述べたように、デンプンなど炭水化物の摂取を控えれば、確かに食後血糖の急上昇を抑制する効果は大きい。また難消化性食物繊維の摂取も、腸管におけるブドウ糖の有効濃度の急上昇を抑えることでその吸収速度を低下させるため、食後血糖の急上昇の緩和が期待できる。しかし、これらのことと摂取カロリー制限とを同一視することは出来ない。それゆえ、筆者には単位重量当たりのエネルギー含量が多い(つまり高カロリーの)脂肪の摂取抑制と相対的に多い炭水化物の摂取(つまりハイカーボ食)が、何故標準的な栄養指導となったのか理解し難い。言い換えると、食事の量を制限して血糖値の低下を図る一方で、何故食後血糖を上げるポテンシャルが一番高い炭水化物から必要なエネルギーを得なくてはならないのであろうか?生化学的研究から、細胞は一部の例外を除き炭水化物だけでなく、脂肪酸もケトン体もその情況に応じてエネルギー源として利用していることが明らかにされている。
ハイカーボのカロリー制限食で血糖値を上げておいて、インスリンやその分泌促進薬で血糖値の低下を図るという図式は、本研究会理事長のDr灰本が度々指摘しているように不合理で、どこかマッチポンプ的な矛盾の連鎖を感ずる。